2020年4月9日木曜日

総員起シ 吉村 昭著  1980年12月 株式会社文芸春秋 刊行 感想


日本人の隣に「死」というものがある感じは、先の大戦であろう。
 筆者の小学生の時期は、昭和30年代の始めから半ばまでであった。
 小学生の遠足?なんかで、船舶関係の研修所のようなところに行ったことがある。
 そこで働いていた若い船員などは、太平洋戦争で兵隊として戦った経験のある人ばかりだった。

 米兵がこうして銃を撃ってくる。で、暗闇の中で、タバコの火がポツンとみえる。ちょいとその火の横を狙って銃を撃つんだ—なんて、話を聞いたなぁ。
 なにか、戦後10年くらいでは、戦争の話なんて、身近なものであった。

 表題の本は、昭和20年815日が終戦の日となっているが、815日以降もソ連は、終戦とはなっていなかった。
 樺太などの日本人を攻撃し、また、日本海では樺太などからの引揚船をソ連は潜水艦などで攻撃し、撃沈し、多数の死者を出している。

 そんな類の短編を集めた本だ。

 アマゾンから、感想文を転記してみよう。

 -ここから-

手首の記憶 これの印象がすごく強い。電車の中で泣きそうになる位。
ソ連軍が攻めてきた南樺太で起きた悲劇。真岡電話局の悲劇の様な事件である。

著者の調査と史実を通した訴えが、よく伝わる各短編。

読みたかった本でしたので満足です。世の中から忘れて欲しくはない1冊

もはや、時代の要求から離れてしまったのか、Amazonでは中古品しかない。でも、広く勧めておきたい1冊。
太平洋戦争まで最前線での戦いの外に「銃後の戦い」と呼ばれるものがあった。
樺太の大平炭礦病院での看護婦の集団自決事件を記者が追う「手首の記憶」や、留萌沖で樺太からの引き揚げ船が国籍不明の潜水艦の雷撃で撃沈した事件を扱った「鳥の浜」など、表題作「総員起シ」以上に読後感に響くことの多い掌編が並ぶ。
版元品切れには惜しい作品揃いだ。

史実は凄い吉村昭氏の著書は、史実を元に綿密な調査をされていて、いつも圧倒される。

素直に良かった。品も中々で、中身も期待通りでした。やっぱり、吉村さんですネ~

教科書的歴史書がとりあげることのない終戦前後の秘話を題材にした優れた短編集です。淡々とした語り口を通して戦争の悲劇性を伝える著者のプロフェッショナルな力量には感服のほかはありません。日本国憲法の精神を大きく踏み外す集団的自衛権の「解釈による合憲化」が推し進められる中、今一度戦争の愚かしさに思いを致す時が来ているのではないかと思います。

 太平洋戦争中に起きた5つの事件を題材にした戦史小説の短編集。
 北海道日高の漁村の沖合で撃沈された兵員輸送船。輸送船を脱出し、真っ先に村に上陸してきた将校達は、なぜか沖合にひしめく兵士の救助に向かおうとしない。数日後、近隣の漁村に流れ着いた遺体の中には、腕が切り落とされたものが多くあった。(「海の柩」)
 昭和196月、愛媛県沖合で発生した大型潜水艦沈没事故の生存者はわずか2名のみ。そして9年後、海底60メートルから沈没した潜水艦の引き揚げ作業が始まるが、その結末は衝撃的であり、悲しいものとなった。(「総員起シ」)
 この他の収録作品は、樺太でのソ連軍侵攻の最中に起きた看護婦達の集団自決事件(「手首の記憶」)、戦闘はすでに終結していた昭和20822日に北海道沖で「小笠原丸」が正体不明の潜水艦に撃沈され、樺太からの多くの引揚者が犠牲となった悲惨な事件(「烏の浜」)、散髪係として軍司令部に最後まで同行した人物が見た沖縄戦(「剃刀」)を描いた3作品。
 戦争というものの悲しさを強く感じさせる印象深い1冊。

表題作は「伊号三十三潜水艦」事件を扱ったもの。単行本で読んだのであと「海の柩」と「烏の浜」が入っていた。いずれも史実取材もの。

6編の短編小説が掲載されているが、どれも史実だけに迫力が凄い。ここに掲載されているすべての小説を読みながら、ネットで事件、事故を検索しつつ、その位置関係や写真を確認しながら読みました。

吉村氏の特異な興味深い戦史秘話です。潜水艦伊号33の事故沈没にまつわる話は、読むほどに切なくなります。私はこの潜水艦乗組員の、九年後に引き揚げられた時の遺体の写真を見ましたが、本当に眠っているような状態でした。その遺体が引き出される時の、空気に触れ腐敗始まる描写に驚きとともに、なんとも言えぬ気持ちになりました。読む価値はあります。

太平洋戦争末期の史実5編からなる短編小説集。
「海の柩」・・・・・日本の北方領土最北端、千島列島がカムチャッカ半島にに続く最北端の島占守島(しゅむしゅとう)。
占守島の日本守備隊はソ連参戦後も奮闘努力、これを撃退した勇壮な様は浅田次郎の長編小説「終わらざる夏」に詳しいが、本編は多分ソ連参戦以前の出来事だろう。北方の安全を見越した日本軍は占守島の残存勢力3000人を南方戦線へ移動を図る。その輸送船で何が起きたか。
魚雷攻撃を受けた兵士たちの末路は?
「手首の記憶」……南北樺太の国境線を一方的に突破して突如攻撃してきたソ連。
南樺太の病院勤務の看護婦さんたちになにが起きたか?
「烏の浜」・・・・・・おなじく昭和20年8月15日の日本降伏後、南樺太からの民間人1500人を乗せた引き上げ船「小笠原丸」になにが起きたか?
「剃刀」・・・・・・米軍の猛攻撃を受けた沖縄本島の守備隊と栗林中将の最後は?
「総員起シ」・・・・・昭和19年、四国今治沖で潜水訓練中の最新潜水艦「伊号第三十三潜水艦」は故障により浮上不能となった。乗組員102名になにが起きたか?
いずれも史実に基づいて短編小説に仕立て上げている。
しかし、リアリズムの作家吉村昭の作品である。そこまで書くのか、と思わせる残酷な事実の羅列。
結果、全編を覆うのは無数の死、死体、死骸、死骸、死骸・・・・・。
力作であることは〉認めるが、亡くなった方々には申し訳ないが、読んでいて気持ちが悪くなってくる。
食事の前に読めば食欲不振に睡眠前に読めば悪夢にうなされること必定である。気の弱い方は警戒して読んだ方がよかろう。

瀬戸内海で沈んだ呪われた潜水艦、密閉された艦内、酸欠、生きたまま冷蔵保存された人間たちが戦後、引き上げられる。沈みゆく艦内で死を思う兵士たちの悲しい話!

 -ここまで-

 戦後70年以上を経過すると、「死が身近にある」という感覚が薄れてしまう。
 この短編集は、濃密な「死の臭い」に満ちたものだ。
 上の感想文で「戦争の愚かしさ」云々といぶ文章があるが、筆者は愚かしいなどとは思わなかった。

 先の大戦は、日本人が明治維新というリセットを経て、世界へうち出ていくとき、100年先行した産業革命組の国家民族とは、どうしても一度は争わざるをえない宿命のようなものを振り返ってみて、感じる。

 この日本の150年というものを振り返って、太平洋戦争というものは、日本民族にとって画期的な出来事であり、日本人へこれからも多大な影響を及ぼしつづける---そんな出来事であろう。

 昭和19年、潜水艦が事故で沈没し、助からないと覚悟して、海軍中尉が遺書を書いている。
 曰く、「大東亜戦争勝抜ケ、吾ガ遺言ハコレノミ」と。
 
 筆者は、顔を上げることができなかった。