2020年11月3日火曜日

テロリストのパラソル 藤原伊織著 講談社文庫 1998年刊行 感想

 

江戸川乱歩賞と直木賞をダブル受賞した作品だ。

 単純にいえば三角関係だし、次々と予測不能な出来事が発生するジェットコースター小説ともいえる。

 粗筋に触れようとしても、ちょいと、筆者の能力ではできない。

 上記のどちらの賞なのか分からないが、この作品の選評があった。まず、それをみてみよう。

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選考委員 評価 行数 評言

阿刀田高

60

23 「推理小説としては、いくつもの欠陥が指摘できるだろう。」「しかし、人物の描写力がただごとではない。」「よい点はいくつもあるが、とりわけ文章の中にそこはかとなく漂うユーモア感覚、これは、なかなか得がたい特色だ。」「この筆力ならば、きっと今後もよい作品を書いてくれるだろう、と私はこのギャンブル好きの作家に賭けてみたくなった。」


黒岩重吾

71

29 「私が感心したのは、主人公の観察眼には無数の針があって次々と人間を抉ってゆくにも拘らず、針が真綿でくるまれ文章に溶けていることである。」「ラストの部分で纏めて事件を説明しなければならなくなる。案の定そうなり、軽い失望感を覚えた。だがこれは推理小説の宿命かもしれないし、作者の才能は間違いなく、受賞に賛成した。」


井上ひさし

61

45 「文章力において(引用者中略)最高の達成をみている」「活発な精神の往復運動が独特の、得難いヒューモアを生み出している。話は深刻なのに、作品はどこを切り取っても質のいい諧謔で満たされているのだ。」「結尾の、関係者一同が寄り合ってすべてが解決するというご都合主義も、「謎解き」がこの作品の題目の一つであることを思えば、読者は喜んでこれを許すにちがいない。」


田辺聖子

67

64 「全共闘の〈疾風怒涛時代〉(引用者中略)が人の運命にどんな力を及ぼしたかを、推理小説に仕立ててあるのが秀抜の魅力である。」「何より魅力的なのは文章の快いリズムで、会話におけるいささかのケレン味もいやみではなくよく消化れ、淡々たる味だが水とはちがう。」「逝った青春への鎮魂歌といえようか。すぐれた一級のエンターテインメントだと思う。」


平岩弓枝

63

38 「主犯の桑野という男が最後にひたすらせりふでその生涯を説明するせいもあって、どうも龍頭蛇尾の人間にしかみえない」「小説の醍醐味を心得すぎるほど心得た作品であり、切れ味が実に見事となると、やっぱり、瑕瑾にこだわる必要はないと判断してしまう。受賞する所以であろう。」


渡辺淳一

62

15 「文章の質がよく、テンポも快適で、要所要所も巧みに描かれているが、秀才が書いた小説といった印象を拭えない。とくに最後の爆発事件の背景や殺意の謎解きになると、動機が浅く、一人よがりで説得力に欠ける。」


津本陽

66

41 「ことごとしい筋立てというのを、私はきらいである。」「だが派手な筋の運びにもかかわらず、全体を通してみると、性能のいい自動車のように、各部品が必要な場所に的確に配置されている。つまり、細部に力がある。」「多少、筋立てにややこしい点があるが、我慢して読みおえると、充実感を得た。」


五木寛之

63

38 「ほとんど満票と言っていい支持を受けてのダブル受賞である。」「なにかを言いたい作家の息遣いが感じられるという点で、(引用者中略)際立っていたと思う。」「なによりの美点は、読者に対してフェアであることだ。」「フィクションをフィクションとして読者の前に提出しようといういさぎよさは、たしかに一つの才能である。」


-ここまで-

 アマゾンのレビューをみよう。

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5つ星のうち4.0 藤原伊織さんに生きてもっと書いてほしかった

2019129

何年か前に読んだことがあるのですが、すっかり忘れて今回再読。

新鮮な気持ちで読みました。面白かったです。

初対面なのにすぐに心を許してしまうことや週刊誌の記者が簡単に情報を伝えてしまうことなど

いまの時代から考えるとありえない感じですが書かれた時代ではまだあり得たことだと思います。

それにしても主人公が魅力的。解説にもありましたが、キャラが立ってるとはこのことだと思います。

飲んだくれのアル中の中年男性がこれほど魅力的に(容姿についての書き込みはないのに)

思えるのは、ひとえ作家さんの力量だと思います。若くして食道がんで亡くなられたのはほんとに残念です。

もっともっと作品を読みたかったです。

ただ、ほかの作品も読ませていただきましたが

どの作品も主人公もタバコとアルコールが切っても切れない感じで

ご本人もきっと広告代理店という職業柄なども踏まえてタバコとアルコールでお亡くなりになったのかと思います。

もっともっと作品を読みたかったです。

生きることの難しさを感じます。


5つ星のうち5.0 魅力的な登場人物たち

2019227

 主人公のキャラが立っている、というレビューがありましたが、主人公だけでなくその周辺の人物が非常に魅力的。赤いコートのバイオリン弾きの少女。ホームレスの老いた元医師。奇妙なやくざと、女子大生の運転の対比。そして、前衛的な演劇少女の元彼女。最重要人物の「汚れを拒む」ような学生時代の姿。遺族のマスコミ志望の少年。お茶好きな遺族で警察嫌いの頑固おやじ。犯人当てミステリとしては、証拠はあからさまにはなってないので、純粋に読み物として楽しむのがよいと思います。本当に楽しい読み物です。何回も繰り返して読んだ文庫本が紛失したので、キンドルで買いました。これで何度でも読めます。やっほー。


5つ星のうち3.0 面白い時代小説

2020129

この主人公、アル中に見えない程冷静に状況を把握して、行動している。人の感情がない、淡々と作業するロボットのよう。ハードボイルドにしたくてみっともない姿やら弱っている姿をあえて描いていないのか?わざとにしてもあまり感情移入できなくて取り残されている気がした。

人としての感情はどこへ?もう少し可愛さがあればもっと熱中できると思う。学生運動の話が出てくるがその時代に生きていた訳ではないのでなんとも現実味がない。よくも悪くも昔の作品だなと感じた。


5つ星のうち3.0 面白いけど、都合よすぎかな

20181226

ストーリーは面白く、一気に読みました。ただ、あまりにも都合良すぎるのと(小説なんだからとふまえても、ちょっと無理があるかな)準主役の若い女性が、う〜んって感じ。

仲のいい母親が亡くなったその日に動く?そして初対面なのにクビ突っ込み過ぎて不自然。

でも展開がどんどん変わりながら進んでいくので飽きずに面白く読めます。オススメ。


5つ星のうち4.0 多過ぎる偶然

20181023

物語の設定には偶然が多過ぎる。だが、登場人物たちは魅力的で一つの青春小説としても強い印象を残す。


5つ星のうち5.0 会話が粋

20201020

「学園闘争は世間の悪意をも相手にしていた」「桑野は主人公の自由なのんきさに嫉妬し、対抗するため爆弾を製造した」この場面、私の未知の世界でした。


5つ星のうち5.0 名作!

201927

小説好きなのでいままでたくさんの本を読みましたがこの話ほど緻密でカッコいい世界観の作品は知りません。リアリティもあり引き込まれます…。読んで損なし!だと思います。


5つ星のうち5.0 映画を観ているかのような緊張感

2020916

読書家の知人に勧められるままにポチりましたが大正解でした。日頃小説はあまり読まないのですが、これは一気に読み終えてしまいました。手に汗握るサスペンス映画を観ているような感覚でした。


5つ星のうち4.0 こてこて

2016104

内容には触れないでおきますが、こてこてのハードボイルドです。

リアリティにかけるという意見もあるでしょう。でも、そんなにリアリティをハードボイルドに求めます?

昭和の香りの懐かしいおじさまには楽しめるのでは無いでしょうか。


 -ここまで-


 藤原伊織さんと筆者は、同じ年生まれで、「学園闘争」なる不可思議な時代を共有している。

 騒動が終結して、20数年たって、その影響の結末を迎えるものかなぁ。

 いや、筆者は別に不満を述べているのではない。小説としては緻密な構成で面白いと感じた。