2021年6月22日火曜日

隠し剣秋風抄 藤沢周平著 ㈱文藝春秋 1984年5月刊行 感想

 

なんともしれぬ安定感のようなものがあって、心地よい。筆者は、こういう短編集をまとめる力がない。アマゾンのレビューを抜粋させてもらおう。

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★「隠し剣」シリーズ第二段。主人公達の秘剣と男女の機微の融合が本シリーズの特徴だと思うが、本作は女性の魔性と清廉さを対比して鮮明に描いている印象。「酒乱剣石割り」は酔う程に剣技が冴える主人公が痛快だが、さして効果的とは思えない主人公の妹の淫乱な転落物語を挟む所が本作の趣向か。「汚名剣双燕」は驕慢な女に振り回される主人公の悲哀に忸怩とさせられる。「女難剣雷切り」は女運の悪い主人公がコキュ役まで演じさせられる悲哀を滑稽味の中に描いたもの。「陽狂剣かげろう」は藩主の息子に許婚を奪われた主人公が陽狂を装っているうちに、本当の狂気に陥ってしまう様を描いた異色作。前二作と合わせ、現代にも通じるテーマが続く。「偏屈剣蟇ノ舌」は偏屈者の藩士を扱って「たそがれ清兵衛」を思わせるが、偏屈者だからと言って刺客役を仰せつかる構想は無理があろう。「好色剣流水」は主人公が本当の好色なので読んでいて共感が沸かない。女性だけでなく、男性の色欲と堕落を描こうとしたものか。「暗黒剣千鳥」は藩の権力闘争を背景に、主人公の婿入り話と暗殺劇を巧みに織り交ぜた佳作。「孤立剣残月」は過去に上意射ちを行なった主人公が四十を過ぎて、その弟の仇討ちの意志の噂を聞き、周囲に右顧左眄するが相手にされない様子をユーモア味で描いておいて最後に泣かせる心憎い構成。「盲目剣谺返し」は味見役として盲目となってしまった主人公とその妻の苦悩と夫婦愛を描いた秀作。「武士の一分」と言う言葉は有名になった。バリエーションを付けようとしたものか、作品毎にレベルの差が大きい気がする。姉妹作に比べ凄みのある秘剣が少なく、人物設定やストーリー展開も物足りない気もするが、藤沢作品の味が堪能できる好短編集。

5つ星のうち5.0

藤沢周平は私の愛読書ですから何度読んでも飽きません。kindleで読むと、軽くて明るくて電車の中でもベットの中でも楽々です。

5つ星のうち5.0

精神的に本を読むのが億劫になっていたときに、偶々出会いました。40頁ほどの短編が9本入っていますが、一編一編の読後の満足感と余韻は半端なものではありません。各編とも、良質な長編小説を読み終わった後のそれに匹敵するといっても過言ではなく、改めて読書の醍醐味と藤沢作品の素晴らしさを教えられました。(単純な私には、描かれた女性像はどれも官能的でした。個人的には、「偏屈剣蟇ノ舌」と「好色剣流水」、「盲目剣谺返し」がベスト3です。また、「陽狂剣かげろう」は、シチュエーションこそ異なりますが、小林正樹監督の名作映画である『切腹』を思わせるものがあります。)いずれにせよ、暇のある方もない方も、とにかく一読をお薦めします。

5つ星のうち4.0

短編の剣客物がたくさんあって、病院の待ち時間などで読むのに最適です。でもあまり頭に残りません。

5つ星のうち5.0

藤沢周平氏の小説は、読書の楽しみを反芻させてくれます。「隠し剣」とは、剣術の流派に伝わる必殺技のことです。伝家の宝刀を抜く、という言い方がされますが、実際は伝家の宝刀は抜かないものです。伝家の宝刀があることを相手に思わせることが、抑止力となり、それが威厳となってゆきます。同じように隠し剣は、一士相伝。伝えてもよいと思う弟子、たった一人に相続してゆきます。

当然、誰の目にも触れずに消えてしまう場合もあり、噂だけが流れている幻の技です。誰もが目にしたいのですが、誰が使い手かも判っていません。その「隠し剣」を巡るエピソードが9編。どれもこれも、名人技のような惚れ惚れするような文章です。あとがきに藤沢氏が、楽しみながら書けたことを記していますが、それも十分伝わってまいります。第9話『盲目剣谺返し』は映画『武士の一分』の原作です。

5つ星のうち5.0

1篇が15分くらいで読み終わってしまうが、話も登場人物もバラエティに富んでいて飽きさせない。

結末にハッピーエンド型と破滅型の2種類があり、どちらになるのか最後まで予断を許さない。

随所に効果的に入ったユーモアセンスも光っている。主人公が絶体絶命の中で見た「異様なもの」には思わず笑ってしまった。通勤電車でWEBブラウジングよりはるかに楽しいひと時を与えてくれます。

5つ星のうち5.0

藤沢周平氏の真骨頂ともいうべき本書、短編集です。一番感動させられたのは映画「 武士の一分 [DVD ]」の原作の「盲目剣谺返し」です。同じ隠し剣シリーズの「 隠し剣孤影抄 (文春文庫) 」も読んでもらいたい。読めば必ず藤沢氏の他の書籍も読み漁りたくなるだろう。

5つ星のうち3.0

藩のため、愛する者のため、そしておのれのプライドのため、人を切るにはそれなりの理由があった。日常の様子からは想像もできぬほどの剣の腕。この作品に登場するのはそういう武士ばかりだ。だが、どんな理由があるにせよ、人を切り殺すことに変わりはない。その悲哀さも含め、人の心の揺れ動くさまを作者はじっくりと描いている。いつの世も、生きることには悩みがある。すっきりしたラストばかりではないけれど、心に余韻を残す作品だった。

 -ここまで-

 冒頭で安定感とか書いた。質の高さという意味に解してもいいような気がする。筆者は、後ろから年齢というものが追っかけてくる。「後、2千冊」という言葉がいつも聞こえる。