▲昨年末頃からのダイハツ工業の動きをみていると、ダイハツの最優秀社員による親会社トヨタへの反乱としか見えない。核心部分は、たぶんこうだ。トヨタの偉いさんが、ダイハツという子会社の社長として舞い降りる。で、親会社であるトヨタへ向けて「いい格好」をしたいと新車の開発期間を従前より削減して、「俺の顔を立てるために、このくらいの期間でつくれ」とか、ダイハツの社員に命令する。で。そんな期間で「新車を開発できるか、俺達に不良品を造れと言っているのか」とばかりに反抗し、意図的に試験の回数などを抜かして(実際、時間的な余裕などなかったのだろうな)、車の不正状況をマスコミに情報を流し、大騒ぎとなった--ということだろう。そんな親会社へいい格好したいばっかりの社長をダイハツへ送り出したという「ヘマ」をトヨタ(会長も新社長)も隠した--というのが真相ではあるまいか。また、いたずらに「技術者の誇り」を傷つけるとこうなるという典型例ともおもえる。
※2024年3月19日 ダイハツ工業の桑田正規副社長は19日、メディア向けの説明会で、階層の多い組織を見直す考えを明らかにした。管理職と現場に乖離が生まれる原因は階層の多さにあるとの見方を示し、「実際に現場で作業している社員の顔色を見て、話を聞くことができる組織体制を考えていく」と話した。桑田氏は1日にダイハツの副社長に就任した。直近はトヨタ自動車子会社のトヨタ自動車九州で副社長を務めていた。トヨタでは人事や総務などを経験しており、車の認証試験で不正が相次いだダイハツで、社内風土や組織の改革を期待されている。桑田氏はダイハツの工場や販売店などを視察し「トヨタに比べて階層や書類が多い」と感じたという。不正が相次いだ原因について「リソースがそれほど変わらない中で生産台数が相当伸びており、かなり無理をした規模の拡大だったのではないか」と述べ、階層を減らして風通しのよい組織づくりを目指すとした。ダイハツは2023年12月に大規模な認証試験の不正を公表し、国内すべての完成車工場で生産を停止した。24年2月に国土交通省に提出した再発防止策では、不正の温床となった組織風土の改革などに取り組むとしていた。
※ダイハツ工業は滋賀工場で一部車種の生産を再開した。ダイハツ工業は18日、滋賀工場(滋賀県竜王町)で小型車「ロッキー」など3車種の生産を再開した。ダイハツは2023年12月に認証試験の不正があったと公表し、国内の全ての完成車工場で生産を停止した。京都工場(京都府大山崎町)とダイハツ九州の大分工場(大分県中津市)は2月に稼働を始めており、生産再開は3カ所目となる。国土交通省はダイハツが国内で出荷していた全ての車種の安全性を検証している。ダイハツは国交省から出荷停止の指示を解除された車種から、生産を順次再開している。ダイハツによると18日時点で生産を再開、もしくは再開のメドがたった車種は、台数ベースで「(不正公表前の)7割程度にあたる」という。18日にはロッキーとトヨタ自動車にOEM(相手先ブランドによる生産)で供給する「ライズ」、SUBARU(スバル)向けの「レックス」のガソリン車モデルの生産を再開した。滋賀工場で生産していた軽乗用車「タント」とスバル向けの「シフォン」についても国交省が出荷停止の指示を解除しており、仕入れ先や販売会社の準備ができ次第、生産を再開する見通しだ。滋賀工場の従業員は18日の午前7時半ごろ、隣接する寮から続々と敷地に入っていった。40代の男性従業員は「生産停止期間は長く、苦しかった。気を引き締めて、ひとつひとつ丁寧に仕事をしたい」と語った。20代の女性従業員は「工場内は暗い雰囲気が続いていた。今日からは車の購入を待ってくれていたお客さまのためにできることをやっていきたい」と意気込んだ。ダイハツの完成車工場は国内に4カ所あり、このうち本社工場(大阪府池田市)では生産を再開していない。
※ダイハツ、過度な「短期開発」見直し 安全担当者を増員ダイハツ不正2023年12月28日 ダイハツは開発期間の見直しに着手した ダイハツ工業は新車の開発期間を見直す。短期間の開発が認証試験での不正の原因になったと指摘されたことを受け、現場の社員の意見を聞き取った上で、競合メーカーの水準をにらみながら開発期間を延ばす。不正の再発を防ぐため、認証試験にかかわる安全担当者の人数を増やすなどの対応も進める。
※ダイハツ不正、調査報告は組織防衛か 設計主導言及せず2023年12月26日 ダイハツ工業が直面した深刻な問題。自動車メーカーで開発設計を担った技術者の目には報告書が真因を追究できていないと映る。不正問題についてダイハツ工業は組織防衛に入った──。ダイハツの不正を調べた第三者委員会が2023年12月20日に公表した調査報告書。その中身を自動車業界の人間が読めば、ダイハツの思惑が見えてくる。同社が今、考えているのは不正への反省でも真因(問題を引き起こした本当の原因)の追究でもない。ただ、会社を守ることである。報告書の指摘を簡潔に述べるとこうだ。「短期開発」と呼ぶスピード開発設計の納期を順守するために時間が逼迫。外観デザインと設計変更に時間をかける分、法規認証業務に割ける時間がなくなったので不正を行った。「不正行為に関与した担当者は、やむにやまれぬ状況に追い込まれて不正行為に及んだごく普通の従業員である」(報告書) 総論では対策を講じなかった経営幹部の経営責任を指摘しながらも、不正に手を染めた直接の責任については、認証業務を担う従業員に押し付けた格好だ。だが、この報告書の内容を「自動車メーカーで仕事をしたことがある人間なら誰も信じない」と自動車メーカーで開発設計者を経験したコンサルタント(以下、自動車系コンサルタント)は語る。「技術検証力が不足した報告書」と断じるのは、同じく自動車メーカーの開発設計出身のアナリスト(以下、自動車系アナリスト)だ。 第三者委員会は調査に約7カ月もかけていながら、生々しいクルマづくりの現場の実態を知らないため、不正の本丸に切り込めなかった。同委員会の貝阿弥誠委員長が自ら、調査には「限界がある」と認めている。そして、ダイハツはそれをよいことに、「本当の事」を言わずに隠蔽を決め込んだ。こうして出来上がったのが、「ダイハツの言い分を表層的になぞっただけの報告書」というのが、クルマづくりの専門家の見立てである。 ■「不正のデパート」 ダイハツの不正体質は重篤の域に達している。報告書は最も古いもので1989年に不正行為があったと記述した。実に34年間も不正を継続し、かつ隠蔽し続けてきたということになる。しかも、この期間はあくまでも今回の調査で判明した年数だ。今回の調査には「任意調査の限界や証拠の散逸などに伴う限界」(報告書)があるため、もっと以前からダイハツは不正に手を染めていた可能性も考えられる。驚くのは、ありとあらゆる不正行為を同社が行っていた事実だ。一連の不正問題が発覚するきっかけとなり、「内部告発」(トヨタ自動車の豊田章男会長)によって明るみに出た側面衝突試験の不正(2023年4月に発覚)と、その直後に見つかったポール側面衝突試験の不正(同年5月に発覚)だけでは済まなかった。さらには、衝突試験関連の不正だけに絞られてもいなかった。騒音試験から制動装置試験、ヘッドランプ関連の試験、フロントガラスの曇りを取るデフロスター関連の試験、速度計試験、そしてエンジン関連の試験まで、ダイハツは幅広い領域で不正を行っていたことが判明したのである。エンジンの排出ガス・燃費試験の不正にまで手を染めていたのだから、日野自動車以上の悪質さだと言わざるを得ない。不正を行った試験は25項目もあり、不正の種類は3つに分けられる。(1)意図的に車両や実験装置などに不正な加工や調整などを施した「不正操作」(2)意図的に虚偽の情報を試験成績書に記載して認証申請を行った「虚偽記載」(3)意図的に虚偽の情報(ねつ造データや流用データ、改ざんデータ)を実験報告書などに記載した「データ偽装」──である。同社の繰り出した手練手管の数々に「まるで不正のデパートだ」と自動車系アナリストは嘆息する。最大の問題は、これらの不正の全てを認証業務を担う従業員に押し付けたことである。具体的には、安全性能担当部署の試験実施担当者や試験成績書作成者、法規認証室の試験成績書作成者、排出ガス・燃費試験担当部署の試験実施担当者、エンジン開発担当部署の試験実施担当者が行ったと報告書は指摘している。この指摘を自動車系コンサルタントは「あり得ない」と一刀両断する。では、本当の責任を負うべきは誰なのか。同コンサルタントと自動車系アナリストの意見は一致する。「不正は設計主導だ」と。一体、どういうことか。 ■うまい具合に不正できるのは「設計者だけ」 ダイハツの奥平総一郎社長。「設計が不正を主導していることを奥平社長が知らないはずがない」という声が自動車メーカー出身者から上がるが……答えはシンプルだ。「試験実施担当者や試験成績書作成者だけでは不正ができないから」(自動車系アナリスト)である。そのことは自動車の開発設計プロセスを見れば分かる。開発設計プロセスを直接担う部署は3つある。(1)開発設計部門(2)評価部門(3)認証部門──だ。自動車メーカーでは新技術を盛り込んだ製品の開発を開発設計部門が担う。設計目標値を満たし得る技術を設計者が考え、造った試作品の性能試験を評価部門が担当する。評価部門はその試験結果を開発設計部門にフィードバックし、それを基に開発設計部門が試作品を改良して、再び評価部門に渡して評価するといった具合に、両部門は協力し合って新たな製品の開発を進めていく。そして、評価部門が「性能が設計目標値に達しており、量産化が見込める」と判断したら、開発した製品(試作品)を認証部門に渡す。それを受け取った認証部門は、国の認可を得るために必要な試験を行ったり書類を作成したりと認証作業を進めていく。ところが、こうした認証業務を認証部門に丸投げすることはないというのだ。認証部門は、渡された製品の設計内容の詳細までは分からないからである。「技術的に何をどう工夫すれば、性能がどれくらい変わるのかを把握しているのは設計者しかいない」と自動車系アナリストは証言する。誤解を恐れずに言えば、「うまく不正を行うには高度な技術力が必要」というわけだ。技術の詳細を知らずにいいかげんな方法で不正すれば、おかしな性能値が出て国土交通省側にばれたり、操作した性能値が法規の求める合格値に達しなかったり、不正作業のために時間を浪費して納期に間に合わなかったりする恐れがある。国交省側に不正だと認識させずに、「ちょうど良い具合の性能値」に抑え込むことができるのは、設計者だけという指摘である。そもそも「インチキをしないと合格しないことを、なぜ認証部門は知っているのか」と、自動車系アナリストはこの問題の核心を突く。設計者が教えなければ、本来、認証部門は不正の必要性すら分からないはずだ。言うまでもなく、認証部門の本業は認証取得のための業務であり、性能未達の責任も出荷責任も負う必要はない。「自動車メーカーで開発した人間であれば、開発設計部門と評価部門、認証部門の3つの部門が合意した上で不正に手を染めていると分かる」(同アナリスト) ■組織的な不正を隠す思惑か 自動車系コンサルタントも「この不正は組織的だ」と見る。そのことは不正の中身を見れば明らかだ。例えば、原動機車載出力認証試験における不正では、ダイハツはエンジンに次のような不正な加工を行っている。①シリンダーヘッドの下部を面研磨して燃焼室の容積を縮減した ②スロットルボディーのボア径を拡張した ③作動角が大きいカムシャフトを特注して使用した ④シリンダーヘッドの吸気ポートおよび排気ポートを研磨した ⑤ハイオクガソリンを使用した ⑥電子制御燃料噴射装置のロムを書き換えた これらは全てエンジンの出力を引き上げるための不正工作だ。このうち、④について「まさに認証を取得するためのスペシャル仕様だ。ポート研磨はスーパーカーに採用するかしないかといった技術。量産エンジンで採用したというケースは聞いたことがない」と同コンサルタントは驚く。 例えば、吸気ポートは吸気バルブ直前にある混合気(ガソリンと空気)の通り道。この吸気ポートを研磨すると、混合気の圧力損失を減らして出力や効率の向上につながる。このポート研磨について「実施したのは確信犯だ。誰か1人の思いつきでできるものではない」と同コンサルタントは指摘する。その理由は、認証部門にポート研磨は不可能だからだ。この加工を施す場合、試作部に加工を依頼する必要がある。そのためには、理由を管理職である上司に相談し、許可を得なければならない。そうしなければ、試作部に依頼する費用を確保できないからだ。つまり、課長級以上の管理職が承認しなければ、ポート研磨は実現できないということなのである。以上から、次のことが見えてくる。 不正は開発設計部門(設計者)が立案し、考えた不正な工作を認証部門に指示して実施させた──と。これが自動車メーカーの開発設計経験者の見立てである。 ■なぜダイハツは認証部門に責任を押し付けたのか。「設計者を守るためだろう。自動車メーカーの競争力の源泉は技術力。それを生み出せるのは技術者だ。その本丸とも言える開発設計部門(設計者)が不正を主導したとは、とても言えないのだろう」と自動車系アナリストとコンサルタントの意見はここでも一致する。 もし、「本当の事」を言ったらどうなるのか。「会社が甚大なダメージを負う可能性がある」と自動車系コンサルタントは語る。「ダイハツの経営が傾けば、地域経済に与える影響も大きい。ここは認証部門の問題にとどめておこうという社内力学が作用したと考えてもおかしくない」と見るのは自動車系アナリストだ。ダイハツとしては会社を守るためにも、社内にはともかく、社外に向かっては認証部門が不正を犯したとしか言えないのかもしれない。だが、不正の責任を開発設計部門に負わせなければ真因を追究できず、ダイハツのクルマづくりの本丸に巣くっている不正体質は治らない。そんなことでは「安全・安心なクルマ」はいつまでたっても期待できない。不正の撲滅か組織防衛か。ダイハツの奥平総一郎社長は経営トップとして究極の難題を抱えている。(日経クロステック )-ここまで-