2017年3月14日火曜日

セイコーの行き詰まりの原因はなにか

単一の製品を造っている会社が行き詰まっている。
 技術が低くて—ということではない。
 これ以上、技術的には他と「差別化」できないというところまで達してしまったためだろう。

 セイコーなど見ていてそう思う。
 内蔵されているクオーツの発振器があれば、価格などなんの関係もなくて、精度が高いのだ。
 また、同時に電波時計なんてものがあって、クオーツの発振器以上の精度かもしれない。
 すると、正確な時刻を表示するという時計本来の目的を達する装置として、もう、価格の問題ではないのだ。

 セイコーの最高級時計であるグランドセイコーと、数万円の電波時計では、精度の上でどこが違うのだ?と問われても答えられまい。
 逆に数年ごとに電池を入れ替えなければならないグランドセイコーの方が、面倒臭いとか感じてしまう。

 つまり、このあたりが、セイコーの高級時計が売れない理由ではあるまいか。

 以下、新聞から抜粋。

 セイコーホールディングスは2月、2016年4~12月期の連結決算は、売上高は前年比16.6%減の1910億円、営業利益は58.7%減の56億円、純利益は95.0%減の6億円と発表。大幅な減収減益です。
 国内では、訪日外国人需要が低調で、高級時計の販売が伸び悩みました。
 セイコーは高級時計でも定評があり「グランドセイコー」「クレドール」「ガランテ」といった高級時計を扱っているが、高価格帯の時計が不振でした。

 海外では、ドイツをはじめとして多くの市場で好調に推移したが、円換算した売上高は減少しました。また、アメリカのデパートでの販売が不振だったことも影響した。売上高比率は海外がおよそ50%、日本がおよそ50%です。
 現在、セイコーは精巧な時計を提供する企業として世界で評価され1969年に世界初のクオーツ腕時計「クオーツ アストロン」を生み出した。
 その後もさらに技術を磨き続け、2012年にはGPS衛星電波から現在地の正確な位置・時刻情報を取得する、世界初のGPSソーラーウォッチ「アストロン」を誕生させています。

 セイコーは卓越した技術力を誇ります。しかし、競争の激化によりセイコーの業績は伸び悩んでいるのが現状です。
 2012年3月期から2016年3月期までの各期の売上高はおよそ3,000億円で、概ね横ばいで推移しています。売上高は横ばいのため、 良くはないが悪くもないと見ることもできます。しかし、時計市場を見て考えると、セイコーは厳しい状況下にあることがわかります。

 日本時計協会によると、日本の時計メーカーによる腕時計の総出荷金額(輸出+国内出荷)は2011年が1,689億円でしたが、2016年は2,606億円にまで増加。
 両期間では54.3%も増加しています。一方、セイコーの売上高は伸びていません。
 このことから、日本の時計メーカー間でのセイコーのシェアが低下していることがわかります。競合企業は成長しているのに、セイコーは成長できていません。相対的に勢力が弱まっているのです。

 そうなると、今後の競争力の低下が懸念されます。競合企業に切り込まれる可能性があるといえます。加えて外国の時計メーカーとの競争も激化しています。
 象徴的な出来事があります。セイコーは1964年の東京オリンピックの公式時計に採用されました。1998年の長野オリンピックでも採用されています。しかし、2020年の東京オリンピックではセイコーは採用されませんでした。

 スイスのオメガが選ばれたのです。オリンピックの公式時計に採用されなかったからといって特別な意味は本来ありませんが、セイコーの勢いがないことを象徴しているかのように思えてしまいます。 日本の時計メーカーに公式時計になって欲しいと思っていた日本人は少なくなかったでしょう。

 さらに時計メーカーの人気調査の結果から、セイコーの眼前に外国の時計メーカーが大きく立ちはだかっていることがわかります。
 スイス時計協会の「腕時計に関する消費者意識調査 2014」によると、 「次に購入したい時計ブランド」の問いでセイコーは5位でした。
 価格帯などの違いがあるため一概には言えませんが、ロレックスやオメガ、カルティエ、ブルガリに劣っている状況です。

 人気時計ブランドで5位は悪くない順位ともとれます。しかし今後の成長を考えると、上位に君臨しているロレックスなどの外国の時計ブランドに勝つことができなければ、今後の成長は望めないともいえます。
 セイコーが売上高3,000億円の壁を突き破るには、ロレックスやオメガなどと同レベルのブランド力が必要といえます。

 時計業界での競争は激化しています。そういった状況下でセイコーが今後成長するためには、流通網の拡大がカギとなりそうです。
 競合企業の追い上げがあるとはいえ、セイコーの時計の「精巧さ」や技術は色あせていません。
 しかし、その良さが十分に伝わっていない面があることを否定できません。
 そこで重要となるのが店舗です。ブランド価値を直接体感できるのが店舗だからです。

 セイコーの流通網はまだまだ開拓の余地があるといえます。
 2004年よりセイコー製品専門店「セイコーブティック」の開設を進めています。
 世界の主要都市で70店以上を展開していますが、企業規模からいえば十分とは言えないでしょう。
 国内の正規販売店も拡大の余地があります。
 ブランド価値を高めることができる店舗の拡大が求められます。

補足、感想など

 セイコーはどこに行こうとしているのだろうか。
 世界中にセイコーの店舗を作ってロレックスに追いつく?
 日本国内でも売れないのに? なにか、ドロ沼の深みに向かって歩いているような感じがするなぁ。

 冒頭でふれた。
 昨年だったか、筆者も新しい時計を買おうとした時、高級時計を選択しなかった。
 グランドセイコーでも数年おきに、電池を入れ替えねばなるまい。
 そんなことをするくらいなら、太陽電池式で電波時計としてしまえば、手間いらずで狂いもしない。
 価格も高級時計にくらべれば、安いものだ。

 なんというかなぁ。
 どこか、セイコーは、日本人のもつ「時計の需要」というものを見間違えていないか。
 その「見間違え」にこそ、セイコーの売り上げ不振の原因があるのではないのか。

 いっそのこと、クォーツの発振器を捨ててしまうくらいの覚悟がいるのではないのか。
 クォーツの発振器を発明したばかりに、それに囚われすぎではないのか。