▲新潟県内にある原発の再稼働について、新潟県民の投票で決定しようとかの運動があるらしい。
筆者はこの動きに反対する。
理由は、脱原発という言葉を軽々に発言する人間と同じ匂いがするからだ。
原発の再稼働については、このブログでもなんども取り上げた。
1億2千万人の日本人が、通常の社会生活を営むためには、ある絶対量のエネルギーが必要だ。
例えば、東京都民へ供給する電力を東京都だけで発電している訳ではない。アチコチで分散させて発電しているものであろう。
だから、単純に新潟県だけ、△◇県だけで決めることではないし、仮に県民のみで決定するというならば、民法でいう「権利の濫用」となるものと思える。
以下、新聞から抜粋。
東京電力柏崎刈羽原発の再稼働の是非を問う県民投票実施を目指す市民団体 「みんなで決める会―『原発』新潟県民投票を成功させよう―」が8日、新潟市中央区で発足した。
立地地域だけでなく、全県の住民を対象にした県民投票の実現に向け活動することを確認した。
同原発は現在、定期検査などで全7基が停止する。
本県で県民投票を行うには、有権者の50分の1に 当たる4万人弱の署名を集めて知事に請求し、県議会が条例案を可決する必要がある。
▲補足、感想など
核心はなにか。
それは、こういうエネルギー問題は、小さなセクション(例えば県単位)で考えてはならないということだ。
日本全体でどうなのか—という目をもたずに、この部分にさわることはできない。
また、性急に脱原発の決断をしても、代替エネルギーの問題が簡単に解決できる訳でもない。
ドイツの例をご紹介したい。
--ここから—
2012/03/28(水)
ドイツの原子力発電の段階的廃止の第一線にいる人々は、電気が消えないようにするために日々苦労している。
国内にある原子力発電所の半分が閉鎖されてから1年半。
政府は今後10年間で進める再生可能資源による電力への転換は、 予定通りに進んでいると主張する。だが、専門家は、実際やってみると移行は難しいと言う。
「冬は何とか乗り切った」。
ドイツに4つある地域高圧送電網の1つを運営するオランダ企業で、責任者を務めるフォルカー・ヴァインライヒ氏はこう話す。
「だが我々は幸運だったし、今はもう、できることの限界に近づいている」
ヴァインライヒ氏と同僚たちは2011年に、 北海とアルプス山脈を結ぶテネットのケーブルの電圧を維持したり、障害を回避したりするために、 合計1024回も出動しなければならなかった。
長期的な目標は今も、20ギガワット(GW)の原発の発電能力を代替する持続的な電源を探すことだが、 喫緊の問題はドイツの送電線の脆弱性であることが明らかになった。
メルケル首相に助言を与えてきたユルゲン・ハンブレヒト氏は言う。
「ダメージを被った。我々には野心的な目標があるが、どこを見ても、計画の実行、具体的な行動が足りない」
昨年3月の日本の原発事故の直後に、ドイツの原発17基のうち8基が停止されて以来、ドイツの送電線は急な需要に対応するのに腐心してきた。2月初旬には、あわや停電が起きそうになった。
閉鎖された原発の大半はドイツ南部にあったため、シュトゥットガルトと ミュンヘン周辺の工業中心地は前例のない量の電力を北部の石炭・ガス火力発電所や風力タービンから調達し始めるようになった。
ところが高圧送電網は、このような北部から南部への供給急増に対応できるようには設計されていなかった。
昨年夏にドイツ政府が2022年までに原子力発電を廃止する計画をまとめると、 テネットやアンプリオン、50ヘルツ、EnBWといった送電事業者は、ハンブルクとシュトゥットガルトが弱点になると判断した。
特に、工場の電力需要に加え、家庭の暖房と料理の電力需要が生じる冬場の夜には需給が逼迫する。
2月初旬には、全国規模の停電に対する各社の懸念が欧州レベルにまで膨らんだ。
フランスでの価格上昇を受け、寒波がロシアからの天然ガス供給を滞らせた時に、 エネルギー商社がドイツの電力を大量に輸出したためだ。
従来であれば、送電網を運営する事業者は、原発事業者に発電量を増やすよう要請していた。
だが、総計20GWのうち8GW分の設備が閉鎖された今、これは選択肢にはならなかった。
結局、各社は約10日間にわたり、ドイツ南西部とオーストリアにある古い予備のガス火力発電所を利用した。
「我々にはもう、危機時に対策を講じる余地を与えてくれる予備設備がない」とヴァインライヒ氏は言う。
「もし大規模な発電所を失っていたらどうなるか?」 そうなれば、欧州全土の特定地域で電気を消す「計画停電」を余儀なくされるという。
南部でのガス火力発電所の増設や北部から電力を運ぶ追加の送電線の敷設をはじめとした 解決策には異論がないものの、計画が実行されるかどうかは疑問が残る。
投資家はガス火力発電所を建設したがらない。
再生可能エネルギーが法律で優遇されていることから、 ガス火力発電所は風力発電を補完するためにたまにしか稼働しないかもしれないからだ。
追加の送電網敷設は、計画段階で滞っている。
政府は、予備のガス火力発電所を建設するインセンティブを検討していると言う。
大胆に計画を実行していかなければ、 ドイツは一部原発の運転を2022年以降も継続するしかないかもしれないと警鐘を鳴らしている
--ここまで--
どうだろうか。
原発に代替する「エネルギー発生源」が簡単に入手できる訳ではないことがわかる。
また、どこか無理すると周辺の部分が破綻するということも分かる。
こうしてドイツの例をみていると、一国のエネルギー問題は、短兵急に決定してはならない・余程熟慮しなくてはならないことが分かる。
冒頭でふれたように1億人以上の日本人が、通常の社会生活を営むためには、電力と限らないが、ある絶対量のエネルギーが必要なのだ。
筆者はより安全な原発を開発すべき—という意見だが、原子力という巨大エネルギーを発生させる豪腕ぶりに、恐怖を抱く人も多いのかもしれない。
原発を廃止するという方向で日本人の大多数が賛成するなら、筆者も反対はしない。
それでも、なんども繰り返しているように代替エネルギーが現在の原発並みになるためにはもう20-30年の期間が必要だ。
その間は、原発を利用する以外にない—ということを直視せよ。
エネルギー問題は、日本という国全体の「将来」を、「国運」をも決定する。
だからこそ、原発の再稼働の可否を△◇県だけの県民投票で決めてはならないのだ。