2019年5月1日水曜日

ビジョンがないわけではない。このままではヤバいということもわかっている。ただ、具体的に何を作ればいいのか決まっていない—とパナソニック


日本の技術者の言葉だな、と感じる。
 ハッタリ、コケオドシ、おとぼけとは無縁の言葉だ。
 正直といえば、正直。ただただ、「事実を言っているだけ」なのだ。

 日本人という民族が、中国人、韓国人とこれほど「大きな距離で離れた」民族なのだとつくづく納得する。
 パナソニックという会社は、現在、「特徴のない会社」だ。
 もう、一体なにを作っているのかさえ、世間の人達は知るまい。

 パナソニックの津賀社長の記事があった。抜粋してみよう。

 就任以来徹底して構造改革を進めてきた8代目社長は、創業100年の節目に大きな決断をする。物を作らぬメーカーになる――。
 一体何をするのか、社長の頭の中にしかないビジョンとは何か。
 「危機感は200%」
 212日の朝9時、パナソニック汐留ビルでは、いつものように朝礼が行われていた。
 たかが朝礼、と思うかもしれないが、昨年創業100年を迎えたパナソニック社員には重要な儀式だ。創業者・松下幸之助のDNAを、自分たちが受け継いでいるか確認する、大切な時間である。
 「産業人たるの本分に徹し社会生活の改善と向上を図り世界文化の進展に寄与せんことを……」
 社歌を歌ったあと、所管担当が「綱領」や「七精神」を読み上げる。
 とはいえ、スマホをいじりながら参加する社員もおり、やや形骸化している部分があるのは否めない。
 だが、この日の朝礼は様子が違った。普段より緊張感が漂い、周囲にひそひそと耳打ちする姿があちこちで見られた。

 「おい、日経の記事読んだか?」
 「まさか、社長もあそこまで言っちゃうとはね」
 社員の話題のタネは、210日日曜日の日経新聞朝刊に掲載された、津賀一宏社長(62歳)のインタビュー記事だ。
 パナソニックの現状と展望について、津賀氏は一切の忖度なく回答。
 異例の内容には徐々に触れていくが、社員をいちばん驚かせたのは以下の部分だ。
 〈現在の危機感はもう200%、深海の深さだ。今のままでは次の100年どころか10年も持たない〉
 津賀氏は2012年に社長に就任して以来、大赤字を垂れ流したプラズマテレビ事業の撤退戦を指揮するなど、老舗の革命児としてトップを張ってきた。
 その社長が「近いうちに潰れるかもしれない」と言わんばかりなのだから、社内の波紋は大きい。
 パナソニック幹部社員も驚きを隠せない。
 「津賀さんは、割と頻繁に『このままだと会社が危ない』と口にしていました。
 正直な物言いで、『もうテレビはウチのコア事業じゃないんだ』とか、『お前らは負けているんだぞ』とか、刺激的な言葉で社員を奮い立たせることも辞さない人です。

 でもそれは内々での話であって、新聞インタビューでしゃべるようなことじゃない。経営がうまくいっていないことが、活字になって念を押されたような形で、会社よりも自分の将来を不安視する社員が増えました」
 中国市況の悪化などが災いし、直近の決算では減益となったパナソニック。
 私たちにとってはやはり、テレビや冷蔵庫の会社というイメージが強いが、彼らにとって家電はもはや基幹事業ではないという。
 「もっとも力を入れているのは、自動運転やEVに欠かせない自動車部品の分野で、全体の売り上げの3割程度を占めています。津賀社長はもともと自動車畑出身の人ですから、いまのモビリティ革命に取り残されまいと必死で頑張っています」(全国紙経済部デスク)
 イメージが掴めない
 日経新聞のインタビューに、津賀氏はこんなエピソードを話している。

 〈米国の店に行ったら消費者がうちのプラズマテレビとティッシュとバナナを同じワゴンに入れて買っていた。
 『テレビが安いからプールサイドかガレージで使うんや』と。
 開発者はホームシアターとしてリビングで使ってもらおうと高画質にしているのに。
 アホらしくてやってられるか、と思った。
 日本メーカーがなぜ世界を席巻する商品を出せていないか。答えは単純だ。日本のお客様の声を聞いてきたから〉
 パナソニックに限らず、日本の老舗家電メーカーは高級・高性能を追求したモノ作りが自慢だった。だがいまや、国内消費者の声に合わせて商品を出しても売れない。
 パナソニック技術系中堅社員はこう言う。
 「津賀社長の言うことは間違ってはないんです。高級で高性能な製品を作るために、この会社はどれだけの時間とカネをかけてきたか。しかも、発売して半年もすれば似たような他社製品がズラリと店頭に並ぶんです。
 昔から言われていた『ブラックボックス技術』が、商品開発の分野では限界に来ています。

 ただ、社長には何か考えていることがあるのかも知れませんが、現場はそのイメージが掴めない。いまのパナソニックは不採算事業の見切りが早く、2年も赤字を続けたら即撤退です」
 家電量販店に行けば、パナソニック製品とほとんど見た目の変わらない海外製品が、3分の1くらいの値段で販売されている。
 一方で高級路線では、ダイソンなどのスタイリッシュで性能も高い掃除機や空気清浄機に市場を奪われ続けている。

 〈少しでもアップグレードした商品を出せば日本メーカーがみんなへたるから、自分たちだけは頑張れるという意識は残っている。これでは何も変わっていない。お客様から見れば一旦選択肢が減るだけで、結局ダイソンやアイリスオーヤマが出てくる〉
 こうした国内市場の現状を重く受け止めた津賀氏の次なる構造改革には、2つのテーマがある。
 ひとつは更なる「海外進出」だ。とはいえ、家電は売れない。
 そこで手を組んだのが、イーロン・マスク率いるテスラ社だった。
 両社は'146月、共同で米ネバダ州にリチウムイオン電池工場「ギガファクトリー」を設立、約1800億円を出資した。
 ところが昨年、テスラは新作「モデル3」の納期遅れやマスク氏自身の失言問題により大揺れ。
 パナソニックにとっても経営リスクとなった。

 モノ作らぬメーカーとは?
 当の津賀氏はテスラ社の騒動の顚末についても、包み隠さず答えている。
 〈(テスラの問題が落ち着いたのか)知りません。テスラのお守りしてるわけではないですから。大変な一年だった。
 (中略)イーロンから『もうかってない』とメールが来る。私は『本当は隠してるのとちゃう』『ロス多いからやろ』と返す。せめぎ合いですよ。はっきり言ってうちはもうかってない。こんなはずではない〉
 テスラへの出資が思うように行かず、どうしても次なる海外投資に二の足を踏んでしまう。
 今年1月、トヨタと共同でEVバッテリー会社を設立することが発表されたが、これはトヨタが慌てて「助け舟」を出したと見ることもできる。
 前出のパナソニック幹部はこう語る。

 「津賀さんは中国の市場でも戦いたいと考えています。中国経済に対する懸念はありますが、『いま中国に投資するリスクと、チャンスを見過ごすリスクのどちらが高いのか』と経営陣は考えているようです。
 狙いは家庭向けの家電を包括的に販売すること。次々と建つ新興住宅に、電球から冷蔵庫、ソーラーパネルに至るまでオールインワンで売ることも思索している。ただ、強い地元メーカーも多い中国の市場でそれができるのか、不安もあります」

 津賀氏がもうひとつの軸として掲げるのは、「モノ作らぬメーカー」へと会社を作り変えることだ。
 「これまではハード面の研究開発がメインでしたが、ソフトにも注力していくと宣言しています。
 ドライヤーでも冷蔵庫でも、インターネットに接続できるような製品を開発し、内蔵されたプログラムを更新することで性能を上げる。アマゾンやアップルが先陣を切ったIoT市場に挑もうとしているわけです」(前出・全国紙経済部デスク)
 アマゾンは人工知能「アレクサ」に対応する電子レンジを発売した。
 これに対し、津賀氏は〈アマゾンに電子レンジの何が分かるのか〉と言い切る。
 彼が見据えるライバルは、もはやソニーや東芝といった日本のメーカーではない。GAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン)のようなIT巨星たちなのだ

 「モノ作りは他社に委託し、企画・開発・販売に集中していく『ファブレス』化をパナソニックは進めることになります。日本でこれに成功しているのが総合機器メーカーのキーエンスで、自社工場を持たずに高利益を達成しています。
 人がコツコツと指先で作るより、AI3Dプリンターを組み合わせたほうが安くていいものができる。 そんな時代にわざわざ人や工場を投入する必要はないと考えるのは自然なことです」(岡山商科大学教授の長田貴仁氏)
 このまま単なるモノ作りを続けていても、消費者に飽きられて市場ごと共倒れしてしまう。
 6年以上社長のイスに座ってきた津賀氏にも、強い危機感があるのだろう。
 だが、そのハードルは高い。従業員27万人を抱える巨艦で、社員も納得いくようなシフトチェンジはできるのだろうか。
 元マイクロソフト日本法人社長の成毛眞氏は、このように指摘する。

 「家電の概念を変えるアイデアがあっても、組織の壁はすぐに取り払えません。たとえば冷蔵庫には排熱装置がありますが、これに技術革新が起きて室内ヒーターに転用できるようになったとします。もしそうなればエアコンと冷蔵庫の事業部間で衝突が起こる可能性があります。
 直近のパナソニックにはヒット商品がありません。直近の成功体験があることは大切で、なにが当たるかわからない分野にもチャレンジできる突破口になるからです。
 テスラへの投資など試行錯誤している段階ですが、EVはすでに投資が過熱しきった分野といえるので、社運を賭けるほどの意味があるかは疑問です」

 現場社員とのすれ違い
 本誌直撃に津賀氏はビジョンがないわけではない。このままではヤバいということもわかっている。ただ、具体的に何を作ればいいのかはまだ決まっていない――。このような津賀社長の「本音」が透けて見える。
 社員にしても、「くらしアップデート業」とはいったいなんなのか、まだよくわかっていない。
 前出とは別のパナソニック幹部社員が答える。

 「打つ手がない、それが津賀さんの正直な答えだと思います。それでも、資金のあるうちにあれこれやってみて、キングメーカーの位置を維持したいのでしょう。
 問題は山積みです。まず、製造の軸がソフトに移行すれば、工場の統廃合や従業員の配置転換は不可避です。生産現場の人間には死活問題になる。
 また、津賀さんは積極的に外部人材を幹部に登用しています。外部の意見が大切なのはわかりますが、これに敏感なのが出世街道を歩んできた幹部たちです。
 これまで上から『死ぬ思いでやれ、血の小便が出るまで働け』と言われ、しんどい思いをしてきたのに、役員になる道は閉ざされた」
 本誌は兵庫県宝塚市の自宅に帰ってきた津賀氏本人に、日経新聞の記事の真意を聞いてみた。
 「申し訳ないけど、あの記事に関しては、あんまり取り上げられたくないんですよね……」
 会社を変えなければいけないことは、リーダー自身深刻に受け止めている。ただ、何をどう変えるのか。まだ誰にもわからない。

補足、感想など

 「具体的に何を作ればいいのかはまだ決まっていない---これだなぁ。
 富士通なんかもそうではないのかな。

 閉塞感に覆われているとでもいえばいいのかな。
 振り返れば、ビデオが出る前の感じににているな。
 1970年代末ごろかな。
 「もはや、技術なし」てな本が出る時代があった。

 行き詰まり感のある中、ビデオがでて、その閉塞感が一辺で、吹っ飛んでしまった。
 最先端にいるとは、こういうことだな。
 手本も見本もないのだ。

 信ずるのは、己の眼と才覚のみ。
 ちょいと古いが、昔の記事があった。
 ご紹介したい。

 --ここから--  

2012/11/12()
 日本の大手電機メーカーが苦境に立たされている。
 世界最強のエンジニア集団を有し、長年にわたり日本経済をけん引してきた存在が、このような状況に陥ってしまったのはどうしてだろうか。
 最大の問題は、日本人サラリーマンが「機械を知って人間を知らない」ところにある。 つまり技術はあるが、製品を使う人が感じ考えるところを理解していない、ということだ。

■スペック志向から脱却できない日本メーカー
 日本製の電気製品が世界を長年席巻してきたのは、性能が高かったから。
 しかし今やパソコン、テレビ、白物家電といった電気製品の製造はグローバル化し、メーカーの違いによる技術的な優劣は非常に小さくなった。
 たとえばパソコンは、それぞれの会社が作ったCPUやハードディスクや液晶を幕の内弁当のように箱に詰めたようなものだ。
 世界的な大手企業の作った最新の製品であれば、まず十分な性能を有している。
 だから先進国の消費者は、スペックで製品を選ぶことは少なくなった。
 使い勝手やデザイン、ブランド…。つまり個人の嗜好に基づいて決める。
 今や消費者向けの製品における主戦場は、技術力ではないということだ。
 こうなると、今まで日本企業が得意だった「とりたてて魅力的でも個性的でもないが、性能が高く壊れにくい」という製品の入り込む余地は少なくなる。
 そんな状況でも我が国の大手電機メーカーは、技術偏重のスタンスを続けた。
 それは日本のエンジニアが技術以外の能力を伸ばすことができなかったからだ。
 これは、日本人サラリーマンのライフスタイルの問題に起因する。

■アップルの下請けでは利益が少なすぎる
 日本の多くのサラリーマン家庭では、伝統的に妻が家庭内のマネジメント全般を取り仕切ってきた。衣食住、家計、子どもの教育、家族の健康管理や冠婚葬祭等々、生活に関する重要な事柄のほとんどは妻が牛耳ってきた。
 そのため夫であるサラリーマンは、「生活」にはタッチしない状況が続いてきた。
 このシステムのおかげで会社の仕事に専念できたが、一方で技術のことしか考えることのできない単細胞エンジニアが大量に生み出されることにもなった。
 わき目を振らずテクノロジーを追及するというのは、ノーベル賞を狙うような科学者にとっては正しい態度かもしれないが、人間が使う商品を作る観点からは問題だ。技術ばかりを重視すると、使う人に魅力的でないものとなってしまうおそれがある。
 日本のメーカーは純粋に技術の勝負であれば、まだまだ強い。
 たとえばiPhoneには日本の技術が多く貢献しているので、今後は電子部品や素材メーカーとして生き残ればよい、という意見がある。

 しかし、部品メーカーのマージンは低めに抑えられる傾向にある。
 カリフォルニア大のケネス・クレーマー教授他の研究(20117月付)によると、iPhoneの売上のうち、日本の企業が受け取った利益は全体のたった0.5%であるという。
 一方、アップル社自身の利益率はなんと58.5%にのぼる。
 あなたがiPhoneを買うのに支払った金の半分以上は、アップルの儲けとなっているということだ。
 iPhone5になって日本メーカーが部品に占める割合は増えたそうだが、やはり最終製品を握れない会社は弱い。

■「人間らしい」活動をすることから始めよう
 日本の大手電機メーカーが復活するには、製品に技術以外のプラスアルファの価値をつけるしかないと思う。
 これは前述のように日本の伝統の深いところにまで関係している問題であり、困難な課題だ。
しかし改革は不可能ではないはずだ。
 どうすればよいか? エンジニアをはじめとして、マーケターや経営幹部を含めた日本のサラリーマンの生活パターンを変えることにつきる。
 今後は生活の一定割合は、技術以外のことに振り向けることが重要だ。
 日本のサラリーマンには、衣食住にこだわりが少なく、女性や若者の動向に無頓着で、 文化や芸術に無関心、という人が多い(もちろん例外も多数いるが)。
 iPhoneのような製品を生み出すためには、技術の可能性を追求するだけでは足りない。
 日々の生活を豊かに過ごすことを最優先し、私たちに足りないのは何か、どんな商品やサービスが私たちを豊かにするのか、深く考えることが必要だろう。
 そのためには、組織集団に従属するのではなく、 個人を大切にした「人間らしい」活動に時間を当てるべきだろう。
 まずは長時間労働をやめ、終業後の同僚との飲み会も減らす。ぼんやりとテレビを見る時間を少なくし、落ち着いた思索ができる時間と場所を確保することも欠かせない。

 -以上です-
筆者紹介 小田切尚登
経済アナリスト。明治大学グローバル研究大学院兼任講師。
バンク・オブ・アメリカ、BNPパリバ等の外資系金融機関で株式アナリスト、投資銀行部門などを歴任した。

 --ここまで--
 なにか、一つの視点を与えているようだ。