2021年3月11日木曜日

アメリカ彦蔵 吉村昭著  株式会社新潮社 平成13年8月刊行 感想

 

19世紀の半ばから終わり頃に生きた人だ。

 少年の頃に船に乗り、漂流してアメリカで教育(数年だが)を受けた人。

 丁度、明治維新前・幕末時に帰国して、英語が読み書き会話できるとして、さまざまな交渉事の場面で通訳として、活躍した。<写真が残っているが、賢そうな顔をしている>

 ちょっと、全体をどうまとめていいのか—筆者の能力では手に負えない。

 例によって、アマゾンのレビューの力を借りよう。

 --ここから--

著者の「漂流」を読んで、ジョン万次郎(作中にもちょっと出てきますね)以外にも、この主人公のような漂流民がいることを初めて知りました。そして、大勢の日本人が海洋をさ迷っていたことに改めて驚きました。例によって、資料を丹念に当たり、そこから物語を紡ぎ出していく著者の手腕に、一気に読み進めさせられました。彦蔵の数奇な運命にはもちろん感動を覚えますが、それもさることながら、アメリカの南北戦争時代、そして日本の幕末から明治にかけての激動の時代を一漂流民(日本にあっては一帰化人)の目を通して活写したところは、非常に興味深かったです。

歴史に疎い人間なので、南北戦争の終結で不要になった銃火器が日本に流れてきて反政府軍が目的を達することができたくだりには、目から鱗でした。リンカーン大統領やグラバーなど綺羅星のような人物との出会いと、自己のアイデンティティに悩む彦蔵の対比も効いていて、彼の苦悩が切実に感じられたのでした。是非一読をお勧めしたい著作です。


漂流者の苦難と共に日米の内戦の歴史と日本人のアイディンティのあり方を示す。前半は13歳の彦蔵が漂流者として生死をさまよう様が克明に描かれて時間を忘れて読めた。後半は通訳者として日本に帰国するも、自分がアメリカ人なのか日本人なのか苦悩する旨は、まさに日系人や帰国子女が悩むIdentity Crisisを地で行くものであり、自身の体験ともオーバーラップして共感するところが多かった。名著です。


アメリカ人は、総じて善人(慈悲の心厚い)であり、攘夷に猛り時流に流される日本人は、狂人(外国人&日本人の通訳を殺害)的な構図になっているが、『東の太陽、西の新月―日本・トルコ友好秘話「エルトゥールル号」事件』を読むと、日本人も捨てたもんじゃないよねって気になる。英語に通じていることで重宝がられたが、冷静に考えてみると多くの外国人と日本人に利用されて生きてきただけのことで、自分が今でも坊主船に乗って漂い流れているような気がするとあるが、彦蔵(ジョセフ・ヒコ)の功績は大きい(幕末という時期だけに)。日本に帰国することを熱望しながらも、出来なかった(幕府の政策により)漂流民にも、語られなくとも、そこには、様々なドラマがある。明治も、時が経つにつれ、外国文化に冒され(毒され)、日本古来の文化・伝統を忘れ去っていく所は、物悲しさを感じる。


本書ではいろんな漂流者が出てきます。ジョン万次郎も少しだけ出てきます。不幸な漂流者は後世に名を残すこともなかったが、13歳で漂流者となった船乗りの子、彦太郎(後の彦蔵)はその幸運と本人の努力の甲斐もあってアメリカ人に大切にされました。三人のアメリカ大統領と面会したり、南北戦争に遭遇したり、戊辰戦争でグラバーとともに活動したりしています。幕末の著名人(坂本龍馬や西郷隆盛など)とはちがって、漂流さえしなければ絶対に表舞台には出てこなかったはずの船乗りの子の物語もおもしろいですね。それにしてもアメリカに連れてこられたたくさんの清国人はゴールドラッシュのためだったのでしょうか?奴隷として連れてこられたとは書かれていませんが。


彦蔵のようなしなやかな生き方が今の日本人には必要なのではないか、時代の流れを柔軟な対応力と前向きな努力で切り開いた彼の行動力と、勤勉さには感嘆しました。誰も少なからず潜在能力として持っているはずの力を、もっと引き出す仕組みが今の日本にも必要なのだろうと思う。 もっと多くの人が彼の生きた時代や彼の功績について評価すべきですね。


「生麦事件」「海の祭礼」、本書と、吉村昭の幕末モノ読んできたが、全2者は詳細な解説書のようであったが、本書は終始彦蔵が主人公で、歴史の勉強をしながらも、彦蔵の人生を感じることができた。司馬さんは、キラ星のような主人公を生き生きと描き、その時代は背景に過ぎないが、吉村作品は、時代、歴史、史実が主人公で、人物はむしろ脇役の感じさえある。エンタメとして司馬さんだろうが、当時の空気感を知るなら、吉村昭だ。緻密な取材資料集めで知られる氏だが、本書は特に困難であったと述懐している。13歳で破船漂流し、アメリカで青年期を過ごした彦蔵は、望郷の念を募らせながらも逞しく誠実に働き、多くのアメリカ人に可愛がられる。念願叶い、公使ハリスの船で帰国し、商売のわかる通訳として活躍するも、故郷に縁者はほぼおらず、外人扱いされる。若い頃の活躍に比べ、40歳くらいから病気がちになり晩年期を感じさせた。漂流で人生が激変し、日本人とアメリカ人の両面を持つが、どちらにも完全には心が寄り添えない悲しさ、自分の核を持てない寂しさを感じた。


この本に何を求めるかにより評価は大きく割れると思う。自分は司馬作品の様なエンタメ要素を求めて読んでしまった為に、何か違うと感じてしまった。具体的には史実をひたすら羅列し、何か社会科の教科書を読んでるみたいだった。彦蔵が主役なんだろうけど他の要素を詰め込んだ為に軸がボヤケてしまっている。史実を把握する資料には良いと思うがもう少し小説として読み込ませる要素が欲しかった。


主人公の彦蔵は江戸時代の末期にわずか13歳の若さで、船が嵐で破壊され太平洋を漂うことになるが、運良くアメリカ船に救助される。本書は、他の乗組員と共に救出された彦蔵がアメリカ本土に連れられ、その後香港、米国を転々としながらが日本に帰国する過程と、帰国後の人生を緻密に辿った労作だ。まず驚いたのは、当時のアメリカ人が非常に親切だということだ。彦蔵だけでなく、一緒に漂流した乗組員全員の世話をして、多くの人が帰国に力を貸す。このように他国民に対し思いやりのある国民はなかなかいないのではと思った。勿論、そのような人ばかりではなくアジア人を蔑む人も登場するし、鎖国を続ける日本との国交を開きたいといった思惑を持った人もいたと思うが、それだけではない、アメリカ人の人の好さを感じた。次に印象的だったのが、当時漂流して、救助された日本人が非常に多いということだ。彼らは、日本に帰ろうとして入国を拒絶されたり、帰国の途上で病に倒れたりと様々な運命をたどるわけだが、著者は余り知られていない人についても丹念に足跡をたどっており、その執念にプロの作家としての凄みを感じた。彦蔵の人生全体を辿ってみると、リンカーンを始めとする3人の米国大統領に面会するなど、当時の日本人としては驚くべき数奇な体験をするわけだが、その一方で米国人でも日本人でもないという中途半端な位置づけに苦しむ場面も多くて、漂流しなかった場合とどちらがよかったのだろうかと、人生の苦みを感じる作品であった。


幕末から明治30年まで生き続けた播磨生まれの水主彦太郎(彦蔵→ジョセフ・ヒコ)の生涯をたどった記録小説で、吉村さんのいつも通りの筆致のおかげで一気に550頁を読み通すことができた。いつもと変わらぬ傑作だと納得した。太平洋で漂流し、アメリカの船に助けられ、アメリカ本土で教育を受け、英語に習熟し、さらにアメリカに帰化せざるをえなくなり、ところが日本に戻ってからは生きる場所を転々とすることになる彦太郎の足取りは、海から生還した後も漂流者さながら。とくに40歳で結婚したあとの淡々とした記述は、根無し草風の索漠とした、寒々としたジョセフ・ヒコの心象を示唆していて物悲しく、漂流者の運命の無残さが伝わってくるような気がした。西のぼるという方の文庫表紙の装画も、雰囲気があって感心した。


江戸時代に漂流してアメリカに流れ着き、アメリカ国籍を取得した漁民の波乱万丈な人生を丹念に追った佳作。吉村昭さんの作品には、いつも感嘆します。小説というよりは、記録を整理したドキュメンタリーのようです。瀬戸内海から江戸へ品物を運ぶ廻船が嵐にあって漂流し、アメリカの捕鯨船に救われることから始まる物語です。その漂流民の一人、13歳だった彦太郎が英語を身につけ、ついに帰国を果たしますが、日本は鎖国状態で、さらに江戸幕府終焉の時代。外国人を排斥しようとする攘夷派の存在に恐れ、失望し、再びアメリカに戻ったり、また領事館の通訳として帰国したり。その人生の変遷は凄まじいものがあります。魅了され、一気に読んでしまいました。ちなみに吉村昭(1927-2009)さんのおすすめとして「戦艦武蔵」(1966)、「海の史劇」(1972)、「漂流」(1967)、「海の絵巻」(1978)、「破船」(1982)、「破獄」(1983)、「朱の丸御用船」(1997)、「島抜け」(2000)、「大黒屋光太夫」(2003)などがあります。吉村さんは100冊以上残しているので、私は死ぬまでに全部読めないかもしれません。


彦蔵を中心に漂流民から見た日米

主人公の彦蔵はひょんなことから船が難破し、アメリカ船に助けられたことでアメリカにわたる。蒸気機関や電信に接し、三代にわたってアメリカ大統領と面会する。普通の船乗りとしての生涯を送っていてはありえないことだったろう。幕末の日米交渉にひっぱりだこになるのだが、攘夷運動の危機にさらされたり、南北戦争の雰囲気になじめなかったり(一時は逮捕されてしまう)、結局日本人にもアメリカ人にもなりきれないのがなんとも物悲しい。しかし日本の近代化に彼が果たした役割は決して小さくはない。見どころは彦蔵以外の多くの漂流民である。あまり知られていない人たちについての調査はさすがの吉村氏も苦労したろう。 海嶺〈上〉 (角川文庫) や 椿と花水木―万次郎の生涯〈上〉 (幻冬舎文庫) などと併せて読むとより深く楽しめる。 


「旋舞の千年都市」「叛逆航路」があまりに奇妙奇天烈でページが進まず、脳の休憩、口直しの特効薬として手に取った本書。開口一番「やっぱり吉村昭は読みやすいねぇ」そりゃあ、あんた!日本人の稀有な作家のお話なんだから、当たり前でしょうが!と叱られてしまいそうですが、その通りなんで仕方が無い。母との死別、航海、遭難、漂流、救出、諸外国への渡航、帰国と恐怖etc

アメリカ彦蔵ほど艱難辛苦の道を歩んだ悲しい人は少ないでしょうね。波乱万丈と言う言葉が最もふさわしいのでしょう。この人に幸せだった記憶があるのでしょうか?ああ、いやだ!こんな人生!と思いながらも、平平凡凡と生きている自分にとっては、ある意味航海を軸とした冒険的な半生に妙に魅力を感じてしまうのは私だけでしょうか?まあ、私だったら最初の漂流の段階でさっさと絶命しているでしょうけどね。


 --ここまで-- 

 解説にいい文章があった。

 「かれら漂流民がいたからこそ、錆びた蝶番に油をさすごとく、日本は西洋に向かって明治という扉を開けることができたのではないか--と。

 筆者は、まったく、同感する。