2018年3月5日月曜日

金融老年学の勧め

新聞の記事があって、確かにそうだなと感じた。
 なにかというと、日本人の寿命が80歳ぐらい以上となると、退職してからの時間が長くなる。
 そうすると、高齢者が資産をもって、数十年も、貯金をしたり、運用したりする。

 高齢化すれば、痴呆化というようなことも考えなくてはいけない。
 痴呆化した頭で、運用したり、貯金をするのか---
 そこらに「未知の領域」が広がっているということだ。
 これを金融老年学という表現をしているのだ。

 まず、新聞の記事から抜粋。

 クイズをひとつ。サザエさんの父、波平さんはいくつか。
 みずほ総合研究所トのt氏が講演で披露する持ちネタだ。年寄り扱いされているが答えは54歳。 そう明かすと、納得したような反応が返ってくる。

 朝日新聞がサザエさんを連載した1960年代、日本の会社の多くは55歳定年制を採っていた。
 当時の男の平均寿命は65歳前後。厚生労働省が自賛する国民皆年金が確立したのが61年だ。
 人ロピラミッドは末広がり。経済は高度成長ただ中。年金に頼って暮らす時期ば、波平さんの年金期は10年ほどだ。長生きのリスクという概念など、微塵もなかったに違いない。

 昭和末から平成にかけて産業界は定年を60歳に延ばした。
 65歳までの雇用を厚労省が義務づけたのは、5年前。
 今や平均寿命は男81、女87。長生きする人がたくさんいる。四半世紀を超す年金期もざらだ。
 安倍政権の「人生100年時代」は、いいことずくめ感を醸し出している。
 だが、長生きのリスク、なかでもお金にまつわるリスクを意識せざるを得ない。

 人口高齢化は一般に一国の貯蓄率を下げる要因になる。
 しかし実際に金融市場で起こるとみられるのは株式など有価証券の高齢層への偏りだ。
 加齢にともない無職の人も消費を減らすようになり、貯蓄を取り崩さなくなる可能性が大きい。
 70歳以上の人が持つ有価証券は2015年の106兆円から35年に468兆円に増えると、みずほ総研は試算。個人が持つ有価証券のじつに半分。金融資産の高齢化である。

 問題になるのが保有者の認知機能だ。
 その低下にはさまざまな度合いがある。
 ふだんの暮らしに大きな影響がない人も、金融商品を前にすれば落ち着いて判断できるとは限るまい。
 まして認知症を患っている人は500万人。どんな対応が考えられるか。

 2000年、法務省が制度化したのが成年後見人だった。
 家裁が選んだ後見人は財産管理と暮らしの手続きをする。
 ただし、元本の保証がない金融商品を運用してはならない
 みずほ総研のt氏は、35年に150兆円の有価証券を認知症患者が持つ可能性があると推計。
 この巨額資産の何割かが塩漬けになるだけでも、日本経済には重荷だ。

 金融機関は座して待つわけにゆくまい。
 三菱uFJフィナンシャルーグループのh社長は「成年後見の利便性向上について関係者や裁判所と対話を深めたい」と話した。判断力が衰えた高齢者にどう向き合うかという難題が念頭にあろう。
 行動経済学は、認知機能の衰えが投資判断におよぼす影響などは想定していない。

 この足らざる点を補おうと、金融老年学という領域を切り開いたk慶応大教授らは、思考力や数を処理する力が弱った高齢者が論理より経験と直感を頼りにしがちになる点に着目し、次の仮説を導きつつある。
▼相手の表現のしかたに自己の決定が左右されやすい
▼多くの選択肢への対応が難しくなり、明快な情報と単純な選択肢を好む
▼意思決定を先延ばししがちになり、選ばなかったことへの後悔を感じにくい。手に入れたものは手放したくない
▼ポジティブな出来事や情報を記憶に残し、ネガティブ情報は忘れる傾向がある

 BS放送などで目にする高齢者向けとおぼしき通販番組はよくできている。
 もちろん高齢投資家の保護ルールはある。
 金融機関は①相手の目標、知識、経験、資産に適した商品を勧める②認知機能が下がった人に複雑な商品は売らない-などだ。

 だが営業担当者が認知機能の度合いと変化をつかむのは骨が折れる。年齢で判断しているのが実態だ。
 フィナンシャルプランナーなどの画一的な助言は、さほど役に立つまい。
 結果、判断能力が高い人は投資機会を逃し、逆の立場の人は身の丈にあまる金融商品を抱え込むことになりうる。

 金融庁は方針に「退職世代の資産運用・取り崩しをどう幸せな老後につなげるか、金融業がどう貢献できるか検討する」と盛り込んだ。
 金融老年学の研究に名乗りを上げた三菱UFJ信託銀行は 「ビッグデータなどを使って高齢顧客の状況を的確につかめるようにしたい。それに応じて遺言信託の助言や画一ではない運用を丁寧に提案する社員を育てる」 を目標にする。

 経済学のみならず法学、医学などの知恵を結集させてこその金融老年学だ。
 国の行政にも司令塔が要るだろう。
 波平さんの余命が40年あっても不思議ではない時代は続く。

▲補足、感想など

 さて、どこまで個人の問題に国とか銀行が踏み込めるのか。
 放置もできず、かと言って、大手の銀行がなにもかも、高齢者の財産を信託とかで管理するということもいかがなことか。

 悪質な業者が跋扈する可能性も高いなぁ。
 難しい問題で、途方にくれるような話ではある。