2018年3月30日金曜日

世界が石油を必要としなくなったら

世界が石油というものを必要としなくなったら、例えば中東の資源国はどうなるのだろうか。
 ホンダの2030年頃の売れる車の車種の予測を見てみよう。

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 ホンダの17年の電動車販売は約26万台と全体の5%にとどまるが、30年までに世界販売の65%を電動車にする計画。
 このうち全体の50%をHVやPHVとし、残る15%をEVや燃料電池車(FCV)とする方針だ。
 英調査会社IHSマークイットの予測では、30年の世界販売に占めるHVは全体の33%で、EVの7%を上回る。

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 ホンダの2030年頃の見通しでは、ガソリン車35%、ハイブリッド50%、電気自動車プラス燃料電池車 15% と予測している。

 このガソリン車35%という見通しは、圧倒的であろう。
 ガソリンを必要とする自動車が今の半分くらいになるという意味であろう。

 つまり、石油を必要としない社会(の始まり)というものが、もう、10年ちょい後に迫っているのだ。
 それを受けて、中東の資源国などが、あせっている。
 その状況が記事となっていた。

 以下、新聞から抜粋。

  「氷河は溶け、動き始めた」
 サウジアラビアの実力者ムハンマド皇太子が推し進める改革を助けるりーマ王女は、サウジの変化をこう語る。
 女性の運転解禁などの改革は、新たな経済需要を生む試みの一つでもある。
 サウジは輸出の9割近くが石油で、石油部門は国内総生産(GDP)の3分の1を占める。
 民間企業も、石油に支えられた公的部門に依存している。
 皇太子は2030年までに石油に頼らない経済をつくる計画を掲げている。
 サウジにとっての石油のように、働かずして得られるレント(非稼得性収入)に依存する国を「レンティア国家」と呼ぶ。
 エジプトはスエズ運河の運航料や外国からの援助を受けてきた。

 経済学者は、非資源国も含めアラブ諸国の多くをレンティア国家に分類し、これが統治の仕組みに影響を与えたと考えてきた。
 指導者は人々にこの収入を配分する権力をにぎる。
 王政打倒後に大きな権力を握ったエジプトのナセル元大統領も、サウジの建国の父アブドルアジズ元国王も、国民が政治に参加する権利を制限するかわりに、ゆりかごから墓場まで国民の生活の面倒をみる暗黙の社会契約を結んでいた。
 しかし、人口が急増する現在のアラブ諸国ではこの約束を守り続けることができなくなった。
 レントに頼り切ったシステムを切り替えるのは容易でない。
 「皇太子は改革実現のために24時間をささげている」とりーマ王女はいう。
 首都リヤド中心部で威容を放つ内務省の建物は午前1時になっても多くの部屋の明かりがともったままだ。
 深夜型の勤務スタイルの皇太子は、午前O時すぎから各省幹部の携帯電話を鳴らし仕事の進捗を確認することがしばしばという。
 改革は時間との闘いだが、構造的な問題も浮き彫りになってきた。

 「サウダイゼーション(サウジ人化政策)は大失敗だ」。
 リヤドでタイヤ販売を手掛ける実業家は憤る。
 政府は外国人労働者への人頭税を導入し、サウジ人の雇用を増やそうとした。
 現実には、アジアの出稼ぎ労働者ほど長時間働かず高い賃金を要求するサウジ人を雇うことを企業が強いられた。
 ブルーカラーの仕事の人気は低く、清掃業に就いたサウジ人の話が新聞記事になるほどだ。
 企業のニーズと人材のミスマッチは大きい。
 国際的な子供の数学の学力比較調査「TIMSS」の2015年の結果をみると、シンガポールや韓国など上位のアジア勢と対照的に、エジプト、ヨルダン、モロッコなどアラブ諸国が下位に低迷し、サウジは39力国中最下位。
 改革の途上とはいえ、宗教に偏った教育のカリキュラムの見直しが欠かせない。

 若年層にとって仕事とともに深刻なのは結婚の問題だ。
 式の準備や結納品で多額の出費を強いられ、現実には経済的な理由で結婚ができない未婚者が急増。
 保守的なアラブ世界では結婚を巡る慣習の見通しがなければ異性との交遊もできない。
 民営化など市場化政策を進めれば、出身や教育の格差が、そのまま経済格差に反映される。
 閉塞感が強まるなか、社会の分断を広げ、改革への反発が一気に強まるリスクある。

補足、感想など

 要するに。
 これから、10数年の内に、キリギリス → アリ になることが、社会的に要求されたということだろう。
 そもそも、そう簡単に キリギリス → アリ に変身するものだろうか。
 教育というところが、眼目なのだろうな。

 1980年代、中国が改革開放政策を始めた頃、トウ小平さんという中国の指導者は、世界各国に数万人規模で留学生を送り出すという「荒業」をやった。
 筆者の知る限り、発展途上国で、数万人規模で「留学生」を送り出すということを国家プロジェクトでしたという事例は、中国だけだ。
 トウ小平という人の「有能さ」を示していて、余りあるものだと思える。

 記事にあるサウジアラビアの皇太子は、「数万人規模で留学生を世界へ送り出す」ということができるかな。
 記事にある改革が成功するか否かは、そのあたりに掛かっていないかな。

 でも。
 1980年代、中国にはなにもなかった。
 失うものがトウ小平さんにはなかったのだ。
 しかし、サウジアラビアはどうだろう。
 数万人規模で留学生を送り出せば、当然、皇太子よりも優秀な人物がでてくる。
 皇太子という存在を脅かす存在になることは火をみるより明らかだ。
 サウジアラビアの皇太子には、「失いたくないもの」がたっぷりあろう。

 さて。
 冒頭でふれたように、「世界で石油を必要としない時代が迫ってきている」
 でも、皇太子には、「数万人規模で世界へ留学生を送り出す勇気がない」
 
 サウジアラビアの未来は、この皇太子の「能力」にかかっているのではあるまいか。

 *追記
 イラクで日本式の教育システムを導入したという記事があった。
 石油が不要となる時代を見越してのことかもしれない。

 --ここから--

 イラクの首都バグダッドに日本式初等教育を実践する私立の小学校が設立され、日本大使館で26日、開校式が行われた。ホームルームや掃除、給食を取り入れ、道徳心や集団意識の育成を目指す。
 日本の初等教育に感銘を受けた日本研究者のイラク人が「日本の道徳心こそがイラクの人材育成に必要だ」と実業家らに寄付を募り、設立した。将来的に中学校も開校する方針だ。
 校名は、価値や道徳を意味するアラビア語にちなみ「アルキヤム小学校」。11月にすでに開校し、1年生と2年生計約230人が学んでいる。2年生からは日本語も学習するカリキュラムで、日本に留学経験のあるイラク人教師らが日本語を教える。

 岩井文男駐イラク大使は「とても光栄で、子どもたちに日本に来てほしい」とあいさつ。ラヒ・ミズヒル校長は「私たちの目標は日本だ」と抱負を述べた。

 --ここまで--

 上の事実は、産油国で、日本式の教育システムを売り込めるということを意味しているのかもしれないな。