2018年5月15日火曜日

本当に北朝鮮の金委員長は、シンガポールに来るのだろうか。その2


いや、行かないからと言って、その先に展望がある訳ではない。
 中国へ泣きつくか、巡航ミサイルが飛んでくるのを待つだけの選択肢なのだが---

 会談の期日は、決まっているのだが、双方の思いというか思惑がこれだけ違っていて、会談が果たして行われるのか---と首を傾げる。

 まず、北朝鮮の記事から抜粋。

 6月12日の米朝首脳会談をにらみ、北朝鮮への「見返り」を巡る駆け引きが活発になっている。
 ポンペオ米国務長官は5月13日、北朝鮮の完全な非核化を前提に、体制保証に加え民間企業による直接投資の可能性に言及。
 段階的な非核化を主張する北朝鮮は中間段階での経済支援を求めており、完全な非核化の前に圧力が弱まる可能性もある。
 ポンペオ氏は13日、FOXニュースなどのテレビ番組で、北朝鮮が完全で検証可能かつ不可逆的な非核化(CVID)に応じた際の「見返り策」に言及した。

 「米国の民間企業がエネルギー供給網の整備を手助けできる」として、電力などのインフラ整備や農業支援の可能性に触れた。
 米朝は開催まで1ヵ月を切った首脳会談に向け、より有利な合意を導くために互いに腹の内を探り合っている。
 トランプ政権は期限付きで、プロセスまで含んだ完全な非核化で合意したい考え。
 非核化の対象には核弾頭やミサイル、研究開発・貯蔵・燃料製造・再処理などの施設、人材などを含む。
 しかしCVIDが実現するまで一切の見返りを与えないのは非現実的との見方が韓国などにはある。
 国連安全保障理事会の制裁決議によって、民間企業も北朝鮮との金融取引や合弁事業は禁じられているが人道支援や公益インフラ事業であれば、安保理の北朝鮮制裁委員会が承認すれば制裁下でも例外的な措置を取ることが可能だ。

 米国はかつてリビアが非核化した際に制裁緩和に先立ち渡航制限を解除した。
 ポンペオ氏がわざわざ言及したインフラ整備も目的によっては早期の実施が可能との見方もある。
 韓国はかねて人道支援に前向きな姿勢を示し、南北首脳会談では南北経済協力の再開をにらんで具体的な経済支援策を示した。
 一方、国際社会の制裁圧力が弱まれば、中国やロシアによる抜け道的な支援が進みかねない。
 中口は北朝鮮が主張する「段階的な非核化」を支持している。

 中朝関係筋によると、すでに中朝境界付近では国連制裁決議が規制する北朝鮮労働者の受け入れが再開されている。
 就労ビザではない形式で中国に入国させ、国連決議違反になるのを回避しているもようだ。
 禁輸扱いの北朝鮮産の海産物も中国国内で流通している。
 もともと指摘されていた制裁履行の抜け穴が拡大する可能性がある。

補足、感想など

 アメリカ側の要求をみよう。

 --ここから--

2018/05/14()
 ボルトン米大統領補佐官(国家安全保障担当)は13日(現地時間)、北朝鮮の非核化について「全ての核兵器を廃棄し、テネシー州オークリッジまで運搬することを意味する」と述べた。
 北朝鮮の完全な非核化のために、北朝鮮にある全ての核兵器を米国に搬出し、米国が直接廃棄するというわけだ。
 ポンペオ国務長官は11日、非核化の見返りに「北朝鮮の繁栄」という「あめ」をちらつかせ、一方でボルトン補佐官は恒久的な非核化のための具体的なやり方を提示するという「ムチ」を振ったわけだ。

 ボルトン補佐官は、米国のABCCNNテレビとのインタビューで「恒久的な非核化(PVID)とはどんなものか」との質問に対し「全ての核兵器を除去・廃棄し、米国に搬入すること」として「(PVIDは)保障という恩恵が北朝鮮に流れ込む前に実現しなければならない」と述べた。
 さらに「非核化の手続きは完全に進行しなければならず、それは不可逆的なものだ」と主張した。 オークリッジ国立研究所は第2次世界大戦当時、原子爆弾の製造を主導していた機関で、リビアで廃棄した核物質と装備を保管している。米国が北朝鮮の核兵器処理の場所について言及したのはこれが初めてだ。
 ボルトン補佐官はまた「非核化とは単に核兵器だけを意味するわけではなく、北朝鮮か過去に何度も同意してきたウラン濃縮とプルトニウム再処理能力の放棄も意味する」として「弾道ミサイル問題も交渉の議題に入っているし、化学・生物兵器についても考えなければならない」と述べた。

 非核化の概念について、核の原料、製造手段の廃棄だけでなく、大陸間弾道ミサイル(ICBM)や生物・化学兵器など大量破壊兵器(WMD)全般の廃棄まで範囲を広げたわけだ。
 ボルトン補佐官は「北朝鮮は(核・ミサイル)施設の位置を全て公開し、開放的な視察を認めなければならないだろう」として「われわれは、これを非常に早く実施することを願う」と述べた。
 さらに、北朝鮮の核廃棄と検証の過程で「国際原子力機関(IAEA)が役割を果たすだろう」としながらも「実際の核兵器の解体は米国が実施するもので、恐らくほかの国々の支援を受けるだろう」と述べた。
 ボルトン補佐官はまた、米朝首脳会談で「(北朝鮮による)韓国人と日本人の拉致被害者問題についても取り上げる予定だ」と述べた。

 (女性ナレーター)
〔北朝鮮との交渉の難しさを誰よりも良く知る人物 がいる ウィリアム・ペリー元国防長官だ 正恩氏 の祖父 金日成氏の時代から非核化の交渉に最前線で取り組んだ。一旦 合意を採り付 けたものの決裂した。ペリー氏は北朝鮮に核を廃棄 させることは 当時より遥かに難しくなったと感じて いる〕

 (ウィリアム・ペリー 元国防長官 アメリカ)
 「そもそも 我々は北朝鮮が いくつ核を持っているのか全く知りません。彼らが仮に核兵器を15発 廃棄したと言っても まだ10発隠し持っているかも しれません。全ての核兵器を廃棄したかを検証するのは もはや不可能なのです」
 「これまでの北朝鮮との交渉の失敗から得た教訓があります。あるがままの北朝鮮と向き合うことです。彼らはモンスターではありません。行動ひとつひとつに理由があり一貫したしたたかな戦略を持っています。そして目標を達成する為には臨機応変 に手段を変えて来るのです」

 --ここまで--

 北朝鮮国内ではどうなっているだろうか。

 --ここから--

 国際社会の経済制裁の影響が、首都平壌にも現れており、平壌市民やビジネスマンから強い不満の声が上がっていることが分かった。
 427日の南北首脳会談の直前に中国に出国してきた平壌のビジネスマンが、512日にアジアプレスの中国人メンバーに対し、電力事情について次のように語った。
 「平壌市内でも差があるが、私の住む〇〇区域は、昨年秋まで一日8時間程度電気が来ていたが、今年に入ってからずっと34時間しか来ない。
 親戚が市内の軍需工場のある区域に住んでいるが、ここは金正恩元帥も度々視察に訪れ、この数年、ずっと24時間電気が供給されていた。4月に入って訪ねてみると、一日7時間くらいしか来ないとのことだった」 (中略)

 北朝鮮で唯一、地域として食糧配給制が維持されているのが平壌だ。
 他の地域は90年代に停止したままだ。その質と量は、時々で良くなったり悪くなったりするが、この5年間、職場や区域を通じて白米と雑穀が配給されていた。
 穀倉地帯の黄海南北道に、平壌市民対象の「首都米」を生産する農場が集中している。
 取材に応じたビジネスマンは、「3月はほとんどトウモロコシだけ、4月は中国に出て来るまでなかった。(制裁で)市場での商売が不振な上配給が悪くなり、『食べ物もまともにくれない』と不満を言う庶民層が増えた」と言う。
 また、一昨年まで中国との貿易で羽振りがよかった貿易会社の社員らは、「経済制裁で中国への輸出が止まっているのに、会社から上納金を出せという圧力が強く悲鳴を上げている」とのことだ。 (中略)

 今年に入り、地方都市では住民への電気供給がほとんど途絶えた「絶電地域」が広がっており、党や軍、警察などの重要機関と産業施設に振り向けられている。
 北朝鮮の中でも優先順位の高い平壌でも電力事情が悪化している。
 (引用ここまで)

 アジアプレスは北朝鮮内部レポートを定期的に提供しているのですね。
 で、旧来のレポートではどれほど国連(アメリカ)主導の制裁があっても北朝鮮国民の生活にはそれほどの影響が出ていないというものが多かったのです。
 燃料価格もそこまで上昇しないっていう状況が続いていました。
 しかし、中国が制裁に加わってからこっち、急激な生活の苦しさが語られるようになっています。
 今回のレポートでも優先地区であっても電気が止まり、貴族階級ともいえる平壌の生活すら苦しくなっているという話が見えています。
 B-1Bが朝鮮半島東岸を飛んでも、北朝鮮からのレーダー波を感知できなかったというのは実際なのでしょうね。
 平壌ですらこうであれば、利権を与え続けてくることによって政権を安定させてきた朝鮮労働党の首脳レベルでも同様に苦しくなっていると見るべきでしょう。
 だからこそ状況を変えるために、キム・ジョンウンが南北首脳会談や米朝首脳会談に出てこざるを得なくなった。
 中国が加わるまで制裁には何の意味もなかったんだとする向きもありますが、むしろ段階を踏んで最終的にはセカンダリーボイコットで中国が加わざるを得ないように仕向けたアメリカの戦略勝ちではないのでしょうかね。
 その結果として、これまで対話にすら出てこなかった北朝鮮の国家元首を引きずり出すことに成功しているわけで。
 これだけでもアメリカの本気具合が理解できると思います。

 --ここまで--

 このタイミングで、北朝鮮の高官が中国へ飛んでいる。

 --ここから--

 北朝鮮高官が率いる代表団が14日、北京に到着した。
 関係筋によると朝鮮労働党の朴泰成(パク・テソン)副委員長のほか中郷境界地帯である平安北道など複数の地方指導者が参加している。
 3月の中朝首脳会談で合意した高官交流の一環で、6月の米朝首脳会談を前に中国側と協議し、中朝の結束を示す狙いとみられる。

 --ここまで--

 中朝の結束を示すって。
 習近平国家主席が、そこまで北朝鮮の金委員長を支持するとは思えない。
 もう、「スイスにでも亡命したら」くらいを金委員長へ言いそうだと思うのだが。