2016年10月13日木曜日

駅前の百貨店がなぜ、今まで潰れなかったか

ある現象が発生したとき、その現象の「進む程度」を定量的に押さえることができないだろうか。
 今、「百貨店の閉鎖」という現象がアチコチで見られる。
 当然、売上/コストなどで内部の人には「進む程度」が分かる。

 そうではなくて、外部からその「閉鎖に至るまでの進み具合」を推定する—そういう指標はないものだろうか。

 以下、新聞から抜粋。

■都心部の収益悪化が閉店の背中を押す
 百貨店の閉店が相次ぐ。今年9月から1年間で9店舗が閉店予定だ。
 なぜ閉店が続いているのか。
 原因は、都心部の大型店の収益悪化だ。
 インバウンド需要を含む高額品を中心に、売上高で前年を下回る店舗が続出。

✦グループ全体で赤字店舗を支える余裕がない。
 百貨店業界は1990年代以降、「縮小均衡」へ陥る。
 都心部の大型店は売上を維持できるが、地方の郊外店の落ち込みが大きい。
 背景にイオンモールなどの「ショッピングセンター」の大量出店がある。

 地方では、消費の舞台が駅前中心市街地から郊外のSCに移る。
 ために駅前の「旧市街地」の大手百貨店は、客の姿もまばらで、いつ潰れてもおかしくない様にみえた。
 潰れずに営業を続けたのは、「安静」にしていたから。

 売上は年々減ったとしても、店員の削減や営業時間の短縮などのコスト削減を行えば、店舗は維持できる。いつかは潰れるだろうが、まだ潰さなくてもいい――。
 その延命策を諦めさせたのが、都心部での急激な収益悪化だ。
 2012年末から「円安株高」で、外国人を中心に高額品が売れた。
 しかし、一段落して局面が「円高株安」に移ると、高額品から売れなくなり、収益は一気に悪くなった。ために懸案に手をつけることとなった。

 この決断には、外部環境の変化も影響している。
 20156月から適用される「コーポレートガバナンス・コード」では、企業統治の公正性・透明性の強化が目指されている。
 上場企業は「コンプライ・オア・エクスプレイン」(原則を実施するか、しない理由を説明か)が求められる。

 結果、株主が経営判断を問うようになった。
 たとえばセブン&アイ・ホールディングスの社長交代人事が社外取締役の意向によって否決された。

 経営陣は「なぜ社長を交代するのか」「なぜ赤字事業を放置するのか」という株主からの質問に、客観的で説得力のある答えを用意しなければならない。
 店舗の閉鎖は地元との軋轢も生む決断で、外部からのプレッシャーが決断を後押しした。

■カード割引の変更で「自爆」した伊勢丹
 百貨店の行く末に悲観的な見方もある、しかし、私は中期的にみれば百貨店業界は成長産業になると予想する。
 なぜなら都心部で進行するプロジェクトが2020年までに続々と竣工し、投資を回収する時期を迎えるからだ。
 主に、174月の松坂屋銀座店、17年秋の松坂屋上野店南館、18年の三越日本橋本店、19年の高島屋東京など。都心部については、収益拡大の余地が残される。

 収益力を失いつつある百貨店が、大規模な再開発が手がけられるのは、百貨店がその土地の所有者でもあるからだ。
 都心部の一等地を占有していることは、百貨店の最大の存在意義といっていい。

 進行中の再開発も、百貨店単独ではなく、大手不動産会社との共同開発になっている。
 百貨店にカネはないが、土地はある。
 ために、不動産会社の資金力やノウハウを活用することで、都心部の再開発が進む。

 対して、郊外の百貨店で、土地や建物を所有しない賃貸店舗は、再生戦略をとるのが難しい。
 たとえば三越伊勢丹HDの閉店を発表した三越千葉・三越多摩センターは、賃貸店舗だ。
 また営業赤字に陥る松戸、相模原、府中の伊勢丹も賃貸店舗である。

 賃貸の場合、家賃負担だけでなく、設備投資に踏み切るには、地主に投資を求める必要がある。  しかし地方で十分な投資余力をもつオーナーは少ない。
 だが投資ができなければ、客足は遠のくばかり。
 また、閉店を避けた三越伊勢丹HDが、このタイミングで決断したことは、同社の営業利益の半分以上を稼ぐ新宿伊勢丹など基幹店の苦戦が影響している。

 要因は考えられるが、インバウンドの減少などの外部要因だけではない。
 伊勢丹では今年から、カードによる顧客優待を現金割引からポイント制に移行した。
 年間の利用額に応じて510%の現金割引を行っていたのは伊勢丹だけだが、これを取りやめた。
 この方針転換は、浮動客を中心に客離れが生じた懸念がある。

 伊勢丹は2店の閉鎖するが、これが収益好転につながるとは言い切れない。
 なぜなら人員の「維持」が前提となっているからだ。
 「赤字店舗」は、営業利益は赤字でも粗利益が黒字であれば、人件費はまかなえていた。
 賃貸店舗の閉鎖で家賃は減少するが、人員削減のない閉鎖では、他店に人件費負担を移すだけ。
 経営破綻したスーパー「マイカル」は、この悪循環に陥り、店舗を閉鎖していったが、結局、業績を好転させられなかった。

■事実上の「駅前」は郊外のSC内にある
 これから地方の百貨店の閉店は加速していく。いま東京都以外では人口減少が進み、地方の百貨店を取り巻く事業環境は厳しい。
 そのとき駅前市街地はどうなるのか。
 政府は「コンパクトシティ政策」で、活性化を呼びかけるが、現時点では非常に難しいと言わざるをえない。

 地方では、すでにSCが「駅前」の代わりになっている。
 閑散とする駅前市街地に対し、SCのなかに市役所や郵便局、病院などが揃いつつある。
 しかも駅前市街地まで出て行かなくても、SCのなかに「疑似駅前」や「コンパクトシティ」ができているのだ。

 駅前市街地はSCとの競争に負けている。
 だからこそ自治体は百貨店に期待を寄せるが、百貨店だけでは衰退は止められない。
 むしろ百貨店が撤退している。市街地はしがらみが多く、解きほぐすには多大なコストが生じる。
 しがらみの少ないSCに、ヒト、店、カネが集まるのは当然のこと。

✦地方の市街地を活性化するには、新しいノウハウが必要。まだ可能性はある。
 ホテル業界では星野リゾートが、経営難な老舗旅館の再生に成功していると言われる。
 これは世界トップのノウハウを投入した結果だ。
 所有と経営を分離させることで、柔軟な施設運営を実現している。
 地方の市街地にもそうした手段が有効かもしれない。

 日本銀行の「マイナス金利」の影響で、カネ余りの状況にある。
 求心力のあるアイデアが出てくれば、投資を集めることは難しくない。
 現状維持で死を待つのか。
 それとも外部とのパートナーシップによって再生を志すのか。百貨店だけに努力を求めるのであれば、空洞化は避けられない。

補足、感想など

 鋭い論評だと思える。
 要するに、東京都心部であればなんとかなる。問題は地方の駅前にある百貨店だということ。
 記事にある所有と経営の分離とか言っても難しい。

 とりあえず空家となるか、取り壊して跡地が駐車場となるという例が多かろうなぁ。
 やはり、大きくは三橋さんのいうごとく、新幹線の敷設とか高速道路の新設などのインフラ整備なのだろう。

 地方を活性化させようとするならば、新幹線の駅ができるとか、高速道路のicができるとなれば、状況は一変に変わる。
 すべてに日があたる訳ではないだろうが、あたるチャンスが多くなる。