2020年2月8日土曜日

ひまわりの祝祭  藤原伊織著 2000年6月刊行 講談社 感想


なんというか。
 少なくとも駄作ではない。
 緻密な文章であり、筋立ても複雑で十分に堪能させてくれる。
 ただ。
 筆者には、「ちょいと無理をしすぎ」だな、と感じた。
 タイプとして、逢坂剛さんに似ている。
 盛り込み過ぎなのだが、逢坂剛さんはあくまでスマートにこなしている。
 この藤原伊織さんは、どこか「しっこさ」が、しっこさのまま残ってしまっているという感じがした。

 例によって、アマゾンの書評を転記しておこう。

 -ここから-

5つ星のうち4.0 著者らしい文章、そして終わり方
著者らしい文章、そして終わり方。他の作品同様に主人公のハードボイルド感がたまらない。


5つ星のうち3.0 誤字
本は素晴らしいですが、「藤田嗣治」(ふじたつぐはる)のふりがなが、「ふじたつぐじ」になっていたので直していただきたいです。


5つ星のうち5.0 その古風な錯覚に懐かしい印象を受けたことは、よく覚えている
 妻の自殺をきっかけに、閉じこもりの生活を送る元売れっ子デザイナー秋山。
 ある日、元同僚が訪ねてきて、「500万円を捨てたい」と奇妙な相談を持ちかけます。
 それは、謎だった妻の自殺の原因とファン・ゴッホの幻の作品の存在を探ることになるきっかけとなっていきます。
 主人公の妻に対するあこがれのような感情と、この事件をとりまく人たちが幻の絵画「ひまわり」に抱く欲望が平行して筋をすすめていくので、ちょっと不思議な感じのお話になっています。
 むやみやたらと盛り上げようとしたりしない淡々とした文章なのですが、筋が面白いのでぐいぐいひきこまれる小説でした。次々と展開していくので一気に楽しみました。
 

5つ星のうち5.0 次の作品も思わず…という本です
 前に読んだ、「テロリストのパラソル」と同じような感じで主人公が1人で事件に臨んでいくのかと思っていましたが、今回の話は周りの人たちも‘いい味’を出してくれてました。
 主人公に恋をする、元妻にそっくりの女性、本当は敵なんだけど、‘ゴッホの8枚目のひまわり’を守る為、気付けばともに主人公と手を組み戦うホモ(表現が悪かったらすいません…。)の人…。
とにかく、そういった仲間関係の絡みが今回の話ではいい味を出してたと思いました。
 最後の結末の場面に近づいていくと、小説なのに、なんだか映画を観ているような、そんな迫力も…。
そして、‘8枚目のひまわり’の運命を知り、「~ああ、それでこのタイトルなんだ…」と、感動してしまいました。
 伊織さんのことを知っている人もそうでない人も、読む価値ありの、本だと思います。

5つ星のうち3.0 「荘子」を読みたくなります。
全体としては最後に人を死なせる終わり方が好きではありません。
ハードボイルドとミステリーとのことですが、結局男性のエゴに女性が付き合わされている気がしました。
主人公の周りで真っ先に怪しそうと思われる新聞配達の青年がやっぱりねーという形でネタバレしていて伏線を広げすぎという印象を持ちました。新聞配達の青年が「荘子」を読んでいたのが印象的で読み返したくなりました。筆跡を似せさせるのはアラン・ドロンの映画へのオマージュと書けば綺麗ですがストンと胸に落ちてこないまま終わりました。

5つ星のうち2.0 スタートから無理が!
初めの500万から、終わりの妊娠まで無理があった。ゴッホとか絵画の説明も長い。人間構成にもこじつけみたいでどうだか。半分から後は飛ばし読みになった。


5つ星のうち3.0 もっと未来があったはず

まだみぬゴッホの八枚目のひまわりを巡る作品。
テーマとしてはとてもロマンがあって序盤は高揚を誘うが、どうもストーリーの流れが強引で、先の言い訳を事前にされているかのような展開で気持ちがよくない。
たとえば留学先のアメリカで射撃場へ行くことや、主人公の義理の弟がヤクザであることである。
都会の中心で隠居生活を送る主人公の過去としては、ずいぶんと先の読める話だ。
もちろん多額の金が動けばブラックなマーケットにもその影響が及んでくるのは言うまでもないのだが、だからといって話の起伏のために銃撃戦をしたり、それを成立させるためにアンダーグラウンドを取り入れたりなど創作だからと言って、理屈さえ通れば良いというものでは無いのではないかと思う。
言い回しは魅力的だが、何故か今作ではくどい程に同じ言葉を使うので、回数を増すごとに不愉快になる。
同作家の前作である「テロリストのパラソル」の方がずいぶんとキレや緊迫感がある。
藤原伊織作品全般に言えることだが、登場人物や設定があまりにも酷似しているので何か一作だけ読んで、気持ち良いうちに離れてしまった方が良いように思える。
それだけ質が高く中毒性のある文章を書ける作家だ。
この作品も、もっと良い方向に導くことができただろうと思ってしまうのが、とにかく惜しい。
駄作では決してない。でもどうしても厳しくなってしまうのは藤原伊織作品の敵は藤原伊織作品、だからだ。


5つ星のうち4.0 記憶に残る一冊
テーマがゴッホのひまわりであることや登場人物が魅力的でキャラが分かりやすいせいか、ストーリーが映像として記憶に残っている作品です。主人公の行動には共感できない部分もありますが、会話の切れ味がすごく登場人物ひとりひとりの個性や心情が文章としてここまで描けるのは驚きです。
題材のロマン性であったり人物設定はすごく好きなので、もう少し推理小説としての謎解きに比重があって銃撃戦などの暴力的な内容が抑えめであってくれれば自分としてはより楽しめたかもと思います。

 -ここまで-

 裏表紙にハードボイルドミステリーとか書いてあった。それはそうだろうだけど。